2012.11.25 - web sportiva - NHK杯は羽生結弦が制覇。GPファイナルで日本人男子の争い激化(折山淑美)

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

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NHK杯優勝は17歳の羽生結弦。2位は26歳の髙橋大輔

今シーズン、カナダを本拠地に移した羽生結弦(ゆづる)は、自らが成長した姿を地元・仙台で開催されたNHK杯で存分に見せつけた。

  まずショートプログラム(SP)で昨シーズンより力強さとメリハリがある滑りで観客を魅了。4回転トーループを始め、トリプルアクセル、連続3回転と難度 の高いジャンプを余裕を持ってこなし、3回のスピンはすべてレベル4。さらにステップシークエンスもレベル3にまとめ、10月のスケートアメリカで自身が 出した世界歴代最高点をさらに上回る95・32点を叩き出したのだ。

これで羽生は、SP2位の髙橋大輔に対し7・85点の大差を付けることに成功。ふたつのジャンプをボーナス点が加わる後半に持っていった構成の優位性を存分に活かす結果だった。

「スケートアメリカはいい得点が出ましたが、その時と同じような得点を出す演技ができたことに喜びを感じます。今日の出来は99点くらい。1点の減点はルッツの前の気の抜き方というか……、体力を温存しようとする気持ちがあったから」(羽生)

  ただ、フリーへ向けて不安もあった。スケートアメリカではSPを歴代世界最高得点でスタートしながらも、フリーで3度の転倒。これで失速し、小塚崇彦に次 ぐ2位に止まっていたからだ。スケートアメリカのあとはフリーの通し練習をじっくり積んできたが、今回も、髙橋と練習仲間のハビエル・フェルナンデス(ス ペイン)に逆転される可能性は十分あった。

 

だが、24日のフリーでは、4回転を3回入れたフェルナンデスがミスを連発して早々に優勝争いから脱落。続く髙橋も「演技の面では練習通りに 100%できたが、2本目の4回転のミスとステップでスケートが溝にはまってグラグラしてしまったのが悔しい」と言うように羽生を脅かすところまではいか なかった。

 ライバルふたりの結果を見ていた羽生は最終滑走。ただ、「4回転も最初のトーループは落ち着いていけたし、サルコウもしっかりイメージをつくっていた」というものの、力みもあった。それが終盤での疲労を誘発したのかもしれない。

 フリープログラム最後のジャンプだった3回転ルッツで転倒、さらに、チェンジフットコンビネーションスピンでは、シットスピンの体勢に入ったところで脚の力が抜け手をついてしまったのだ。

  冒頭の4回転トーループのあとの4回転サルコウでミスもあったが、それでも、出来栄えの減点を1・71点に抑えたのが大きかった。「後半はバテていたが、 4回転ジャンプを2本決めていた。特にふたつ目のサルコウをステップアウトでまとめたところは能力の高さを感じた」と髙橋大輔が言うように、羽生はミスを 最小限にすることができていた。

 羽生を追い上げたかった髙橋は、ふたつ目の4回転トーループが回転不足になり、中盤のトリプルアクセルでは手をつくミス。結局、ショートプログラム(SP)で1位の羽生が要素点で髙橋を6・84点上回り、逃げきり優勝を決めたのだ。

「フ リーもまとめられて、SPだけではなく総合得点でも自己ベストを出せたことにまずは安心しました。フリーでは小さいミスが続いた中でも160点台を出せた のは収穫です。後半疲れてしまったけど、集中力は切れなかったから……。スピンで転んだ時はさすがに少し集中が切れたけど、自分の中でモチベーションを 持って流れを大切にしようと思っていたので最後のスピンも集中力を取り戻すことができました。ただ、地元開催の大会だからこういう力も出せたのだと思う」 (羽生)

 フリーを何とかまとめ、1位というポジションを得て「GPファイナルへ進出できるのは大きい」という羽生だが、課題はまだある。 芸術要素点はスケーティングスキルの8・07点以外は7点台。要素点では髙橋を上回ったが、芸術要素点では逆に4・28点差をつけられていた。フリーの滑 りや演技は、メリハリがしっかり効いたSPの力強い滑りに比べて上体の使い方も固くなって単調になり、余裕がなかった。その点ではまだまだ完成とはいえな いだろう。

 一方、髙橋はこの大会、中国杯よりいい演技をして、ファイナルへ進むことが最大の目標だった。「4回転ジャンプではミスもした が、これから試合や練習で詰めていけばもっと良くなると感じている。今やっているジャンプへの入り方も、あとは細かい部分を修正するだけだと思うから、形 はできていると思う」と、安堵の表情を浮かべた。

 髙橋が今目標にしているのは、他の選手たちの優れているところだ。パトリック・チャン(カナダ)の5コンポーネンツ(※)の質の高さや後半の強さ。羽生の流れのあるジャンプの着地などを意識し、自らの技術をさらに磨き上げようとしている。※スケートのスキル、トランジッション(演技のつなぎ)、パフォーマンス、振り付け、音楽の解釈

演技面では中国杯より「はるかに充実してきた」と自信を深める髙橋と、滑りの改善ですべての面でのステップアップに手応えを感じている羽生。12月 6日からのGPファイナルはそのふたりに加え、小塚と町田樹も出場して6つある枠の4つを日本人が占めることになった。最年長の髙橋は、「若手が伸びてき ているので、うかうかしていられない」と気を引き締める。 

そんな日本人同士の争いの中でも、世界王者パトリック・チャンを追う存在としては、髙橋と羽生が半歩は抜け出しているといっていいだろう。そのふたりを中心にした日本男子選手の熾烈な争いは、ソチ五輪まで続いていくはずだ。

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