2013.02.11 - web sportiva - 羽生結弦、四大陸選手権は次につながる貴重な敗戦 (折山淑美)

折山淑美●文・取材 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

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ショート、フリーともに不満の残る内容で2位となった羽生結弦

 2月9日のフィギュアスケート四大陸選手権男子フリーは「まさか」の連続だった。

 最初の予想外の出来事は、最終組2番滑走の羽生結弦の演技。冒頭の4回転トーループこそ余裕を持って2点以上の加点をもらう完璧な出来だったが、続く4回転サルコウは、直前の6分間練習でキレのある回転で決めていたにもかかわらず2回転になってしまった。

  その後、中盤のトリプルアクセルの着地でバランスを崩してからは、スピードも急激にダウン。終盤の3回転ルッツが1回転になるミスも犯してしまい、得点は 158.73点。GPファイナルより約20点、全日本選手権より30点近く下回る得点で、合計も246・38点でショートプログラム(SP)1位の貯金を フイにしてしまった。

 会場のどよめきはそれだけでは終わらなかった。そのふたり後のケビン・レイノルズ(カナダ)が冒頭の4回転サルコウ を筆頭に、3回転トーループの連続ジャンプと4回転トーループを単独で2回決めるなどノーミス。172・21の高得点をたたき出し、合計250・55点に してSP6位からトップに駆け上がった。

 さらに次の髙橋大輔の演技では、落胆のどよめきが起こった。髙橋は冒頭の4回転トーループが回転 不足の両足着地になると、次の4回転トーループも回転不足。さらに中盤のトリプルアクセルでは転倒と、髙橋らしくないボロボロの演技。フリーの得点は全体 8位の140・15点で、合計も222・77点と、SP4位から順位を落として7位と惨敗。呆然とした表情を見せた髙橋は、ミックスゾーンへ来ても動揺し ていた。

「調子自体はよかったのに、何もかもがうまくいっていなかった。練習でもこんなにひどいのはなかったから、全部ダメ。どこかに気の緩みがあったと思う……。これからは気持ちを引き締めて練習をしていきたい」と語った。

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ブライアン・オーサーコーチの指導を受けるため、羽生は拠点をカナダのトロントにしている

   髙橋を指導する長光歌子コーチが「いつもの年の四大陸より今年は1週間早かった。年末の全日本選手権まで緊張が続いていたので、年明けまでは気持ちを緩め させたが、結果的にこの大会への準備が足りなかったと思う」と話すように、気持ちの切り替えがうまくできない大会だった。

 一方、先に滑り終えていた羽生の表情は、悔しさをあらわにしながらも余裕があった。

「調子がよかっただけに、こういう演技だったというのが悔しいですね。6分間練習はそんなに悪くなかったけど、2番滑走なのに(練習で)少し筋肉を使い過ぎていたのかもしれません。終盤は集中力が切れてしまい、演技が散漫になってしまいました」(羽生)

  今回の四大陸は、ライバルであるパトリック・チャン(カナダ)が出場しなかったため、GPファイナルで1位と2位になった髙橋と羽生の力が突出していると 見られていた。特に羽生は、直前にSPのプログラムを変更した髙橋より、余裕を持って全日本王者の強さを見せてくれるはずと期待されていた。

  だが、チャンの不在によって、彼の心にスキが生じたのかもしれない。SPでの羽生の演技には、そんな雰囲気も見えた。冒頭の4回転トーループで2点の加点 をもらい、中盤のトリプルアクセルも2・71点加点される完璧な出来だったが「トーループもアクセルもうまく入ったので、それからあとは表現の方に集中し た」と羽生本人が言うように、魅せることを意識し過ぎた。そのバランスのわずかな崩れが、終盤の3回転ルッツが1回転になってしまうというミスを引き起こ したのだ。

 そして、このSPでの凡ミスが「フリーでは自分の力を見せつけたい」という力みにつながってしまったのかもしれない。フリーの ポイントは4回転サルコウだった。GPファイナルと全日本で完璧に跳べず、その後の練習でサルコウに重点を置いていた。4回転や3回転トーループを跳んだ あとに挑むという、試合の流れに則した練習を繰り返していたのだ。しかし、そのサルコウを失敗。これが、その後のミスを誘発してしまった。

「後 半ダメだったことを、自分の中では責めてはいません。たしかに集中力やスタミナを切らさないようにするのは世界選手権へ向けての修正点だけど、4回転サル コウは公式練習でも調子がよくてバンバン跳べていたので、その感覚を忘れないようにして次へつなげていけばいいと思います。今回の結果は『しょうがない な』という気持ちだし、これが世界選手権でなくてよかった」

羽生がこう言うように、指導するブライアン・オーサーコーチも不安な表情は見せない。

「トレーニングでの調子もよくなっているし、安 定した演技を見せていたので、今回、平均的な演技より下だったのはビックリしている。ただし、決して悲惨な結果ではない。今は3月の世界選手権に照準を合 わせているので、今大会にベストコンディションで臨んだわけではない。彼が強いのはわかっているから、ピークを合わせていくだけだ」 

 さらにオーサーコーチは「選手たちは改善点を見つけながら成長していくもの。もしこの大会で彼がSPもフリーも完璧な演技をしていたら、逆に世界選手権へ向けて心配になったところだ」と言って笑顔も見せた。

 ノープレッシャーで4回転を3回決めたレイノルズの後塵を拝する結果になった四大陸選手権の日本勢。この結果は世界選手権へ向けて気持ちを引き締めるうえでは、貴重な敗戦だったといえる。

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