2013.03.17 - web sportiva - フィギュア日本男子、3枠は確保。ソチ五輪までに必要なこと (辛仁夏)

辛仁夏●文 text by Yinha Synn 岸本勉●写真 photo by Kishimoto Tsutomu

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最悪のコンディションの中、世界選手権で4位に入った羽生結弦

 ソチ五輪の前哨戦となる今回の世界選手権は、男子フィギュアが大きく転換する画期的な大会となった。

  メダルを争うためには、4回転ジャンプをショートプログラム(SP)で1度、そしてフリーでも2度以上跳ぶことが求められる、ハイレベルな戦いを繰り広げ た。もはや4回転が主流になる時代が幕を開けたと言っても過言ではない。今大会のフリーに出場した24人中、半数以上の15人が、成功させたかどうかは別 にして4回転を跳んでいた。

 特にミスが許されないSPでの4回転の成否が、勝敗を大きく左右することがあらためて分かった。日本の男子3 選手はいずれもクリーンにこの大技を決めることができず、順位を下げた。高橋大輔はジャンプの回転不足で4位発進だったが、羽生結弦は4回転で転倒したほ か、必須となっている連続ジャンプを入れることができず、9位と出遅れた。ジャンパー、無良崇人も今大会は得意の4回転が不発で力を発揮できなかった。

  一方で、2000年のアレクセイ・ヤグディン(ロシア)以来となる3連覇を達成したパトリック・チャン(カナダ)は得点源の4回転を、SPとフリーでいず れも成功。SPでは羽生が今季塗り替えた世界歴代最高得点を大幅に上回る98.37点をたたき出した。フリーでは大技を2度跳びながらも、苦手のトリプル アクセルと3回転ルッツで転倒するなどジャンプミスが続いたが、演技構成点で高得点を出してリカバーし、総合267.78点で3年連続優勝を飾った。

  ソチ五輪を最後に現役引退を決めている高橋の五輪プレシーズンは、結果も内容も浮き沈みの激しさが見られた。本人も「良かったり悪かったりと、その差がす ごく激しかったシーズンだった。この時期にこのような経験ができたから、オリンピックシーズンは大丈夫だと信じたい」と、今シーズンの反省を踏まえた上で 新たな気持ちでソチに向けてステップアップをしていくつもりだ。

 

世界選手権前にこれまでないほど「凄まじい」練習に取り組み、体重も2キロ絞り、大舞台への準備を怠らなかったにもかかわらず、今回はその成果をほとんど出すことができなかった。そのことについて、周囲の驚き以上に、本人が一番、混乱している様子だった。

「まったく自分のやってきたことが出せなかった。フリーではジャンプが決まらず焦ってしまった。気持ちだけが先走って前に前に行き過ぎてしまい、気負い過ぎたところがあった」

 フリーでさらに順位を下げ、総合6位。翌日の16日に27歳の誕生日を迎えた髙橋にとっては、今後、目指す大会に向けてどう調子のピークを持っていくか、コンディショニングが大きな課題になりそうだ。

 今季、急成長を遂げて勢いに乗っていた羽生だったが、一番の目標に掲げていた世界選手権での表彰台は逃してしまった。だが総合4位は日本勢最高。満身創痍の中での戦いを強いられた上での奮闘には拍手を送っていいのではないか。

 四大陸選手権後にインフルエンザで10日間寝込み、練習を再開した直後には左ひざを負傷して1週間休むことになるなど、ほとんどジャンプも跳べず、練習もままならない状況に陥っていた。今大会もひざの痛み止めの注射や薬を服用しながらの出場だった。

「と りあえずはやりきったかな。達成感はある。ノーマルコンディションだったら満足できないところですが、いまの状態での滑りとしては満足です。(ブライア ン・)オーサーコーチからは、この1年間練習してきたことは無くなったりしないし、試合になれば絶対に違うから自分の力を信じてしっかりやりなさいと言わ れた」

 

 ひざの痛みをすべて消すと感覚が鈍るために服用した痛み止めの薬は少量だったそうだ。この判断が功を奏した。また、ソチ五輪の国別出場枠3を取る ためには日本代表としての重責を果たさなければいけないという強い思いが、次代のエースを奮い立たせたのは間違いない。4回転では着氷でバランスを崩して も耐え抜き、1つの転倒もなくジャンプでの失敗を最小限に抑えて、最後まで力をセーブしながら滑り切ったのは見事だった。

 普通のコンディションと比べると、フリーのこの日はわずか「20~30%」だったという。終盤は「呼吸は苦しくて足は痛くて動かなくなっていた」ほどだった。

「最後は気合でした!」

 この言葉に負けず嫌いの羽生の意地がうかがえた。

  日本男子はきわどい戦いの中で、五輪の国別出場枠3を確保した。しかし、世界選手権の戦いぶりを見ると安穏としてはいられない。課題は山積みだが、まずは 羽生が言うように「基礎的な身体作りとコンディションのケアをしっかりとやる」ことは、勝負をする上で絶対条件になる。選手本人はもちろん、サポート体制 も含めて、今回の反省を十分に生かして欲しいところだ。

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