2013.03.17 - Number web - ソチ五輪3枠を死守した羽生と高橋。 苦境の中でも見せた責任感ある演技。 (松原孝臣)

http://i.imgur.com/EqS3uOz.jpg
渾身の演技で、ソチ五輪出場3枠を死守した18歳の羽生。オーサー・コーチによると、練習再開は3月6日で、以降も10分間しかジャンプの練習はできなかったという。 (Tsutomu Takasu)

ポーズを決めて叫ぶと、崩れ落ちるように倒れこみ、何秒だっただろう、動けずにいた。
 3月15日(現地時間)、カナダ・ロンドンで行なわれたフィギュアスケート世界選手権の男子フリー。
 羽生結弦のその姿が、すべてを物語っていた。

満身創痍の状況で羽生が見せた意地。
 2月の四大陸選手権のあと、練習拠点であるカナダ・トロントに渡った羽生は、インフルエンザにかかって休養を強いられた。その後は左膝を痛め、本格的に練習を再開したのは世界選手権開幕の1週間ほど前から。しかも左膝は完治しないままで臨んでいた。
 迎えたショートプログラム。安定感を誇っていた4回転トゥループで転倒するなど、75.94点で9位にとどまる。今シーズンのショートの出来を考えれば、信じられない出来であったことが、羽生の状態を示していた。
 しかし、羽生はそのままでは終わらなかった。フリーでは公式練習で右足首も負傷し、満身創痍と言ってよい中、周囲の心配を吹き飛ばす滑りを見せる。ショートでは転倒したはじめの4回転トゥループで着氷すると、その後もミスのない、いや、渾身の滑りを見せつける。
 そして、総合4位と巻き返して、大会を終えた。
「ショートの悔しい気持ちをぶつけて、最後まで気合いで乗り切りました」
 と、羽生は振り返った。
 そして、「やりきりました」という印象深いひと言も残したが、羽生は、昨年の世界選手権でも右足首捻挫の負傷を押しての出場の中、銅メダルを手にしている。そのことも思い合わせると、あらためて、羽生の気持ちの強さを感じさせた世界選手権だった。

来年のソチ五輪出場3枠を死守した、日本代表としての責任感。
 羽生の滑りには、個人としての悔しさとともに、日本代表としての責任感もこめられていた。
 今大会には、来年のソチ五輪の出場枠がかかっていた。上位2名の合計順位が13以内であれば最大の3枠を得られるが、ショートが終わった時点では高橋大輔と羽生の順位を合わせると13。ギリギリの状況でフリーを迎えていたのだった。
「日本代表として申し訳ない気持ちでいっぱいでした」
 と言うように、責任にも後押しされた滑りだったのだ。

ジャンプに精彩を欠いた高橋は「気負いすぎました」。
 羽生が4位、日本勢で2番目の順位の高橋大輔が6位となり、上位2名の順位の合計が13以内。規定により来年のソチ五輪の3枠を無事確保した。
 その高橋は、ショートを4位で折り返しながら、フリーでは4回転ジャンプの1つめは両足着氷で回転不足、2つ目も成功させることができなかったほか、トリプルアクセルでも転倒するなど、ジャンプに精彩を欠き、総合6位にとどまった。
「やってきたことができず、悔しい気持ちでいっぱいです。調子が上がりきりませんでした」
 また、こうも言った。
「気負いすぎました」
 高橋もまた、出場枠獲得の責任をもって臨んでいた。
 高橋は、2月の四大陸選手権、そして世界選手権と、昨年末の全日本選手権以降、調子を落とした感は否めない。その中にあっての6位は、出場枠を確保するという責任は果たしたものでもある。
 また、これまでも挫折や失敗をばねにしてきたのが高橋である。今シーズンの不本意な成績を来シーズンの起爆剤とすることは可能なはずだ。

SPでの出遅れから立ち直り、パーソナルベストを叩き出した無良。
 2度目の世界選手権出場であった無良崇人は、総合8位で大会を終えた。
 ショートこそ11位と出遅れたが、フリーでは5位に食い込み、パーソナルベストとなる234.18点。
「高橋選手が不在だった前回と違い、今回は自分で勝ち取った代表だと思っています」
 そういう思いで臨んだ大会で、失敗を引きずることなく立て直した。
「緊張の中でよくやったと思います」
 と自身も言うように、今回の経験は、次へときっとつながる。

number.bunshun.jp