2013.07.09 - web sportiva - ソチ五輪シーズン直前。18歳・羽生結弦が「本気モード」に突入 (折山淑美)

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

7月1日にはANA(全日空)との所属契約を発表し、ソチ五輪へ向けての競技環境を整えつつある羽生結弦。本格的なシーズンインを前に国内でのアイスショーに出演し、調整を続けている。

 昨季はシーズン前のアイスショーで新しいショートプログラム(SP)を披露し、演技構成を早めに決めていた羽生だったが、今年はまだ固まっていない。

 それは、ケガに苦しむ時期があった昨シーズンの経験をふまえ、今季はじっくりと練習に取り組みながらシーズン本番を迎えようという狙いがあるのだろう。実際、今年3月の世界選手権(カナダ)の直前には膝を痛め、不本意な結果に終わっていた。

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アイスショーで華麗な演技を見せた羽生結弦。4回転ジャンプも成功するなど順調に調整中だ

「今季のフリープログラムはロマンチックで情熱的な部分も兼ね備えている曲で、形としてはほぼ完成していますけど、まだまだ見せられる段階になっていないで す。SPの方はまだ難航していて、少し不安はあるけど、昨季と同じではなく、新しいものを見せたいという気持ちが強いです。構成としては最初にジャンプを 1本やって後半に2本入れるというのは変わらないと思しますし、そこまで心配はしていません」 6月28日から新横浜で開催されたアイス ショー『ドリーム・オン・アイス』では、最終滑走者として昨季のSPを滑った羽生は、「4回転をやらなかったし、(3回転)ルッツで転んだけど、『ドリー ム・オン・アイス』というショーで、初めての最終滑走を楽しく滑れました」と話し、笑顔を見せた。

そして、最終日30日の公演では、ルッツはわずかに乱れただけで、トリプルアクセルをきれいに決めてガッツポーズが飛び出すなど、新しいシーズンへ向けて、徐々に気持ちもフィジカルコンディションも高まってきている。

「今季に向けて、ふたつの心境があります。ひとつは昔から憧れて夢見ていた五輪という舞台を目指すことで、すごくワクワクしながら緊張している自分がいる。そしてもう一方では、シーズンへ向けてしっかりと練習していなければいけないと思う自分がいる。その両方の自分をしっかり保ちつつ、ワクワクすることや緊張 することを大事にして、ひとつひとつの試合に臨み、五輪までのプロセスを大事にしたいと思います」

 羽生にとって、五輪は「あの舞台で金メダルを獲りたい」と、子どもの頃から憧れている場所だ。仙台生まれである羽生の同郷の先輩・荒川静香が06年トリノ五輪で優勝し、その夢を大きく膨らませてくれた。

「あの舞台に立ちたいと思うし、そこで自分がどういう演技をできるかと考えてワクワクしています。ただ、五輪に出るには熾烈な争いが待っている。最終選考会の 全日本選手権もそうですけど、その前のひとつひとつの試合でしっかりと高い得点を取ることや世界ランキングを上げることも(選考に)考慮されると思うか ら、そこもしっかりクリアしながら、ケガをしないで万全のコンディションでやりたいと思います」

 羽生は2012年3月の世界選手権(フラ ンス)で3位になったが、試合直前に捻挫をしてしまい、万全の体調ではなかった。そして今年3月の世界選手権(カナダ)では直前に風邪をひいて休んでしま い、練習再開時に無理をした結果、膝を痛めた状態で臨まなければならなかった。世界選手権という大事な大会前の調整を2年連続で失敗してしまったため、ソチ五輪では「同じミスを繰り返すわけにはいかない」と、表情を引き締める。

「昨シーズンは膝を痛めてしまったのですが、それはなかなか完治 するようなケガではないので、うまく付き合っていくしかないと思っています。ケガ防止のためのアイシングは注意してやっていますし、以前はそれほど意識していなかったストレッチも重視するようになりました。太股の筋肉や、それを支える上半身の筋力などにもフォーカスしてトレーニングをやっていますし、体調管理にも自信があります」

 五輪シーズンの新しいプログラムは、4回転ジャンプの本数は昨季と同じで、SP1回、フリー2回のまま変更しない予定。本数を増やすよりも、スケーティングやスピン、コンビネーションなどの面でまだまだ改良の余地があると考えているからだ。

そんな状況の中、アイスショーでは新しい取り組みもしている。昨季は6月の『ファンタジー・オン・アイス』でシンガーソングライターの指田郁也と『花になれ』という曲でコラボし、エキシビションはシーズン中、同じ曲で通した。

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羽生はショーの最後の「ジャンプ合戦」で4回転を成功させ、笑顔を見せた

  だが今季は、6月1日からの『アート・オン・アイス』(東京)では藤井フミヤの『TRUE LOVE』、7月6日からの『ファンタジー・オン・アイス』 (福岡)では、AIの『Story』と、異なるアーティストとコラボ。シットリとした曲にのって、躍動感のある演技を見せた。羽生はショーでの滑りについ て「曲調によっては普段の演技でやらないような体の動きや、切り返しがあります。そういう滑り、けっこう得意なんです」と笑顔を見せる。

 これまでと違う新鮮な経験を楽しみながらも、それを自分の視野や振り付けの方向性を広げるために有益なものにしようと、羽生はひとつひとつ丁寧に演じて、着実に成長を続けている。

  また、ショーのフィナーレ恒例となっている男子選手の「ジャンプ合戦」では、ともにブライアン・オーサーコーチに指導を受けているハビエル・フェルナンデ ス(スペイン)と4回転に挑んでいたが、『ファンタジー・オン・アイス』の最終公演では、今季の演技中で初めてとなる4回転トーループを跳んだあとでトリ プルアクセルを3回連続で決めるなど、調整は順調なようだ。

「アイスショーが終わったらカナダ(トロント)へ戻ります。それから夏合宿です。そこで今季の土台を作りあげ、そこからどのように試合を組んでいくかを決めます」という羽生。初めての経験となる「五輪シーズン」へ向けて、本気モードに入り始めたようだ。

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