2014.02.15 - sportsnavi - 羽生「プルシェンコのような強い選手に」 フィギュアスケート男子・メダリスト会見

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記者会見で金メダルの喜びを語る羽生結弦【写真は共同】

ソチ冬季五輪のフィギュアスケート男子フリースケーティングから一夜明けた現地時間15日、同種目では日本男子史上初、また今大会の日本勢初の金メダルを獲得した羽生結弦(ANA)がジャパンハウスでメダリスト会見を行い、偉業達成の喜びを語った。
 羽生は「金メダルという素晴らしい評価をいただいたことを誇りに思う」と笑顔を見せ、前日のフリーの演技での失敗については「“五輪の魔物”を少し感じた気がした」と振り返った。また、会見の冒頭では、安倍晋三首相が国際電話で羽生を祝福した。
 以下、メダリスト会見の要旨。

“五輪の魔物”を少し感じた気がした
――メダル獲得から一夜明けた今の心境は?
 まず、日本のフィギュアスケート男子シングルで初めて、こうやって金メダルを取ることができて本当にうれしいなと思います。また同時に、日本人として、日本国民として最高の舞台でたくさんの応援をいただいて、その中で最終的には金メダルという素晴らしい評価をいただいたことを誇りに思います。これからも日本国民として恥じない、五輪金メダリストらしい、日本人らしい人間になれるように努力していきたいと思いました。

――首相から祝福を受けたが
 とても緊張しました。首相もたくさん応援してくださったと思っていますし、(持病の)喘息(ぜんそく)のことも心配していただいたので本当にうれしかったです。これで競技が終わったわけではないですが、これから一生懸命頑張らないといけないと思いました。

――昨夜の時点では悔しさ半分、うれしさ半分だったと思うが、一夜明けて今は?
 今回の金メダルは本当にうれしいです。日本男子シングル初めての金メダルが僕で、日本女子で初めての金メダルが同じ宮城県出身の荒川(静香)さん。自分では(荒川さんに続いて金メダルを取ることを)夢を見ていて、それをずっと追いかけてきたので、本当にそれが実現したんだなと。あまり実感は湧いていないのですが、その夢がかなってうれしいです。

 ただ、昨夜のフリーの演技では五輪の本当の怖さ、“五輪の魔物”というものを少し感じた気がしました。まだまだ僕自身現役を続けたいと思っているので、これからも大好きなスケートとともに一生懸命頑張りたいなと思いました。

フィギュアは自分自身との戦い
――五輪の舞台でそこまでの演技ができたのは、日本国内で過酷な戦いをしてきたからか?
 僕はそう思います。やはり全日本選手権という舞台を勝ち抜いてきたからこそ、こうやっていい演技ができたと思います。また、今シーズンを通して日本男子のみならず、グランプリシリーズ全試合でパトリック(・チャン=カナダ)選手と戦ってきました。彼と試合をこなすたびに、自分がどうやったら超えられるか、どうやったら自分の能力を最大限に発揮できるかを1つ1つ考えてきたので、それが今回の五輪という舞台にも通用したのかなと思います。ただ、フリーはまだ難しかったです。

――被災地から「励みになった」という声が多く聞かれるが、どう思うか?
 被災地の方々、日本国民の方々もそうだと思いますが、こうして僕が金メダルを取ることによって日本も活気づいたらいいなと思います。仙台出身の人間のひとりとして、仙台人として金メダルを取ったからこそ、何かそれをきっかけに復興に対するものを踏み出していただけたら、それが一番うれしいです。もうボランティアの方々による募金とかもだいぶ途絶えてきてしまったので。

――練習中は当日もリラックスている感じに見えたが、いつ怖さに変わったのか?
 きっかけはなかったと思います。でも、結果的にあの演技をしてしまったというのはすごく後悔しています。こうして金メダルを勝ち取ることはできましたが、自分の能力、自分の実力を大きな舞台で発揮できなかった……。やっぱりなんか緊張しました。あらためて難しい舞台だと痛感させられました。

――(フリーは)レベルを下げて安全運転するという選択肢もあったが、4回転サルコウに挑戦した理由は?
 今シーズンを通してずっとやってきたので、それを変えたくないという思いがありました。例えば対人競技、スピードスケートだったりショートトラックだったりは、相手によって何かを変えていかないといけないことがあるかもしれません。五輪だから特別に何かをやるというのはあるかもしれないです。フィギュアは自分自身との戦いなので、自分がどれくらい精いっぱいのことができるか、全力を出し切れるかというのがフィギュアスケートで一番大事なところだと思っています。特に五輪だから何かを変えるかとか、何かをするかということではなく、五輪を1つの試合として全力を出し切りたいと思ったのでやりました。

負けたときに何を考えるかが大事

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ライバルのパトリック・チャン(左)は銀メダル。GPシリーズでチャンに敗れたことが、五輪での勝利につながったという【Getty Images】

――冒頭で「日本人らしい人間になりたい」と言っていたが、自身の考える日本人像とは?
 日本的な文化を忘れないようにしたいと思います。尊重だったり……日本語って難しいですよね。敬語、丁寧語、謙譲語だったり、そういう言葉にも表れているように、尊敬する心、目上の方に対して自分を下げて言ったりだとか、そういう日本的な文化、文化的な人というか……。何て言えばいいんですかね、難しいですね。とにかく僕が見ていて、日本国民として恥ずかしくないというか、自分がテレビに映るので、それを見たときに日本人として今胸を張っていられるのか、それが一番大事なんじゃないかなと思います。

――多くの先輩が頑張っても取れなかった五輪の金メダルを取れた勝因は?
 日本男子シングルが今ものすごくレベルが上がっていて、その中でどのようにして五輪の切符を勝ち取るか、どれだけ自分を高めないといけないという状況になったときに、人はすごく練習する、努力すると思います。そういう追い込まれた状況だったからこそ、こうやって成長できたのかなと思います。また、グランプリシリーズでパトリック選手と戦ってきたので、その中で、ただ負けるだけではなくて、負けたときに何を考えるかというのをすごく大事にして今シーズンやってきました。それが今回につながったのかなと思います。

――エフゲニー・プルシェンコ選手(ロシア)が棄権したが、彼に対する思いは?
 プルシェンコ選手は僕にとってすごい憧れの存在でしたし、今でもすごく憧れています。僕にとって五輪というのは、どちらかというと五輪というものに価値があるわけではなくて、プルシェンコ選手と(アレクセイ・)ヤグディン選手(ロシア)が戦っている素晴らしい舞台というイメージでした。まだ8歳と小さいころでしたが、プルシェンコ選手に憧れて五輪を目指すようになりました。プルシェンコ選手が棄権して少し残念な気持ちもありましたが、五輪の団体戦という舞台で一緒に滑らせてもらったので、それが夢のような感覚でしたし、光栄だなと思います。彼のスケートがもしかしたらもう見られないかもしれない、というのは残念なんですが、今までたくさんの感動をいただいてきたので、とにかく感謝の気持ちを伝えたいと思っています。

自分のスケートをもっともっと高みに
――4年後に連覇を目指すために、やっていかなければいけないことはあるか? 
 特にないです。やらなきゃいけないと思ってやろうとは思っていないですね。自分はスケートが大好きですし、ジャンプが大好きなので、その中で好きだからやってみよう、というのはあるかもしれないですが、平昌(ピョンチャン)に向けて、だから何かをするというわけではないです。ただ、自分のスケートをもっともっと高みに持っていきたいという思いはあります。

――羽生選手を育ててきたのは仙台とトロント(カナダ)。特に仙台への思いが強い理由は? 
 生まれた土地だからだと思っています。そこで生まれ育ってスケートと出会って、姉がスケートを始めてそれについて行って、という自然な流れみたいな感じです。それがなかったら僕はここにいないですし、もしかしたら今ごろ野球をやって有名な選手になっているかもしれないし(笑)。やっぱり仙台、自分が生まれた土地があったからこそ、僕はここにいると思うので、仙台への思いが強いのかなと思っています。

――今後は子供たちから憧れられる存在になっていく。どんなアスリートになりたいか? 
 あまり憧れてもらうようなところはないかなと僕の中では思っています(笑)。自分はまだスケーティング技術などが未熟だなと、トロントで痛感させられましたし、ショートプログラムではうまくいきましたが、フリーでは精神的な弱さを実感したので、どんな場所でもノーミスでできるような強い選手になりたいと思います。プルシェンコ選手がそうだったからというのがあるんですが、彼みたいにどんなときでも強い選手になりたいと思います。

――(現地20日から)女子シングルが始まる。メダリストとして、特に浅田真央選手にアドバイスはあるか? 
 僕からアドバイスできることって何もないなと思っています。浅田さんもそうですが、五輪の怖さを知っていると思うので、その中でどれだけ楽しめるか、そういうことがすごく大事だなと感じました。僕はフリーを滑る前から「楽しんでいこう」と口でも言ってました。でも実際は楽しめなかったんですが、今思い返してみると、19歳の五輪はソチでしか行われなかったので、その中で全力で演技をして楽しんだんじゃないかなと思います。なので、とにかく全力で楽しんでいただけたらと思います。

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