2014.04.04 - Number web - メダリストへの報い。 ~各国の五輪報奨金を比較する~ (小川勝)

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ソチ五輪で日本代表唯一の金メダリストとなった羽生結弦には、JOCから約300万円の報奨金が支払われる予定だ。(Asami Enomoto 榎本麻美)

ソチ五輪における各国のメダル報奨金について、国際スポーツ記者協会が調査結果を発表した。金額は米ドル表示で出ているため、別表では1ドル100円で換算している。この表における報奨金とは、原則としてその国のオリンピック委員会、日本なら日本オリンピック委員会(JOC)が出しているものだ。したがって、その財源は国によってさまざま。国の税金から補助金として受け取ったお金かも知れないし、独自に企業から集めたお金かも知れない。
 また、中国のように報奨金を公表していない国もある。別表の国が、ソチ五輪のメダリストに報奨金を出している国、すべてというわけではない。そもそも報奨金を出していない国もある。英国、ノルウェー、スウェーデン、クロアチアなどだ。こういった前提を理解した上で、別表のランキングを見てみよう。

金メダル有力国で1000万円を超えたのはロシアだけ。
●ソチ五輪・メダル報奨金ランキング

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ランキングは、金メダルの報奨金で順位付けしている。最も高かったのは、ちょっと意外な印象だが、カザフスタンだった。金メダルの報奨金がなんと2500万円。カザフスタンではタクシーの初乗りが300円程度、バスの料金は30円程度ということだから、日本より物価はずっと安いわけで、2500万円はたいへんな金額だ。
 しかし、カザフスタンは冬季競技の強豪国ではなく、ソチ五輪で獲得したメダルは男子フィギュアスケート、デニス・テンの銅メダルだけだった。4年前のバンクーバー五輪でもロシア出身の女子バイアスロン選手が獲得した銀メダルひとつだけだった。金メダルの報奨金がずば抜けて高いのは、実際のところ金メダルを獲れる可能性があまりないから、という面もあるかも知れない。
 そういった事情は、2番目の高額報奨金となっているラトビアも同じだ。金メダルには1920万円が出ることになっているものの、ソチ(銀2、銅2)でもバンクーバー(銀2)でも金メダルはゼロ。3番目のイタリアも1910万円という報奨金だが、やはりソチで金メダルはなかった。
 大会前から複数の金メダルが有力とされていた国で、1000万円を超える高額報奨金が設定されていたのは開催国のロシアだけだ。財源も考えると、高い報奨金というのは、それほど多くのメダルを獲得しない国のもの、と言っていいかも知れない。

チームスポーツの強い国で報奨金を高くしたら……。
 冬季五輪の強豪国で、毎回多くのメダルを獲得する国の報奨金は、だいたいにおいて高くない。カナダはソチ五輪でも10個の金メダルを獲ったが、報奨金は180万円。表中のランキングでは18番目だ。米国も9個の金メダルを獲っているが250万円で16番目、ドイツも8個で270万円、14番目。こうした強豪国はチームスポーツで強いため、金メダルの数よりも、金メダリストの数のほうがずっと多い。
 カナダの場合、ソチではアイスホッケーの男女、カーリングの男女で金メダルを獲っているため、この4種目だけで金メダリストは56人もいる。金メダルに対する報奨金だけで1億円を超えており、こういう国でカザフスタンやラトビアのような金額を出していたら、報奨金だけで1大会当たり10億円以上の財源が必要になる。さすがにそこまで財源に余裕のあるオリンピック委員会は、世界中、どこにもないだろう。

冬季競技の強豪、ノルウェーとスウェーデンは報奨金なし。
 米国オリンピック委員会(USOC)などは、政府からの税金による支援はいっさい受けていない。収入は事業収入、国際オリンピック委員会(IOC)から分配される放映権料、スポンサー料、そして寄付、投資所得といったもので、強化費や報奨金など、すべての支出を賄っている。夏季大会でも多くのメダルを獲得する米国の場合、収入がいかに多くても、報奨金をあまり高く設定すると、やはり財源が追いつかないはずだ。
 金メダルに300万円という日本の報奨金は、表中で12番目だから世界的に見てほぼ標準に近いところ。高くはないが、決して安くもない。メダリストが与える社会的な影響の大きさを考えると、もっと高くてもよいのでないかという意見もあると思う。だが報奨金のないノルウェー(金11、銀5、銅10)やスウェーデン(金2、銀7、銅6)も結果は出していることを考えると、報酬と競技の結果が相関関係にあるとも言えない。
 言えることは、本当の強豪国はあまり高い報奨金は出していないこと。そのことだけは間違いないようだ。

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