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2015.06.01 - Number web - 今季最終戦に見た、羽生結弦の強さの秘訣。 ~来季を見据えた“効率良い回転”~ (野口美恵)

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国別対抗戦で日本は3位に終わったが、羽生はSPとFSでともにトップに立ち実力を見せた。 (Takuya Sugiyama)

4月19日、国別対抗戦の試合が終わり、残すはエキシビションのみとなった朝のことだ。羽生結弦は不機嫌な様子でインタビューに答えていた。他の選手が今季の全試合を終えた解放感に包まれ受け答えするなか、彼だけが笑顔が無い。ある記者が、4回転ループを来季入れるのかと尋ねると、大げさに反応し、「ループは昨日の練習でしかやってないし、来季のことなんて分かりません」とそっけない。
「1つだけ言えるのは、今季は完璧な演技が1つもなかったということです」
 と無表情で言い放つ。普段はしっかり記者対応する彼には珍しい態度だった。
 その理由はすぐに判明した。このエキシビションで“今季初のノーミス演技”と“公式戦での成功者がいない大技4回転ループ”に挑もうとしていたのだ。インタビューを受けたのは、本番1時間前のもっとも集中している時間帯だった。
 エキシビションでは見事に、'13-'14年のショートを完璧に演じ、フィナーレで4回転ループを成功。自身にとっての今季最終戦をガッツポーズで締めた。

4回転サルコウの確率を上げるために、ループを。
 なぜこのタイミングで4回転ループに挑戦したのかについて羽生は「4回転サルコウの確率を上げようと研究した結果を、ループにも生かしたら習得が早いだろうと考えた」という。
 技術面で分類すると、サルコウとループは片足で踏み切るジャンプで、多くの選手が成功させている4回転トウループは両足踏み切り。トウループなら両足のパワーで高さや回転力を出せるが、片足でしか推進力が生み出せないサルコウやループは効率良くコンパクトに回すことが成功のコツになる。
 その“効率良い回転”をサルコウでつかんでいる時期だったので、完全にオフに入って調子が変わる前にループに応用しておきたかった、というのだ。その冷静な計画性には舌を巻いた。
 そして演技後。羽生は記者と廊下ですれ違うと、別人のような笑顔で言った。
「あ! さっきのインタビューは機嫌が悪くてスミマセンでした」
 演技前は周りに不機嫌と思われるほど集中し、終われば腰が低くなり謝罪する。技術力もさりながら彼の強さの秘訣は、この可愛らしい“したたかさ”にあるのだと分かり、思わず苦笑いした。

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