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2015.11.04 - sportsnavi - 振付師・宮本賢二から見た羽生結弦の魅力 (大橋護良)

振付師・宮本賢二から見た羽生結弦の魅力
自分に厳しい「無邪気な20歳」への期待

2015年11月4日(水) 10:20  大橋護良

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宮本賢二が振り付けた羽生結弦のエキシビションプログラム『花になれ』【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 2012−13シーズンから宮本賢二は、羽生結弦(ANA)のエキシビションのプログラムを振り付けている。その過程で五輪王者に抱いた印象は「常に努力を惜しまないし、自分にも厳しい」というもの。振付師としての視点から見ても、練習や試合で100パーセント以上の力を注ぎ込む姿が、表現面において魅力的に映るのだという。細部に至るまで追求し、妥協はしない。だからこそ羽生は世界の頂点にたどり着けたのだろう。また共にトップの舞台で活躍する者同士、宮本と羽生は感覚で通じ合う部分があるようだ。

 その一方で、リンクを離れれば「(羽生は)20歳の無邪気な青年」。宮本は笑いを交えながら、好きなものにとことんこだわる金メダリストの性格を表すエピソードを明かしてくれた。


コピーの後に自分のこだわりを入れる

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宮本の羽生に対する印象は「一生懸命な選手」【スポーツナビ】

――12−13シーズンから羽生選手のエキシビションを振り付けていますが、どのような経緯だったのでしょうか?

 最初はアイスショーの関係で話をいただいて、振り付けをしたという感じです。羽生くんサイドからも、アイスショーサイドからも確かそういう話が来たと思います。

――羽生選手との振り付けの流れはどういうふうに行われたのでしょうか?

 まず滑りたい曲を聞いて、それから使うジャンプとスピンを何個入れるかを聞きました。エキシビションなので何をしてもいい。それらをメモしておいて、そのときは歌詞がある曲だったので、「曲をよく聴いて、歌えるくらいまでになっていてほしい」と伝えました。そうしたらもう歌えていたので、「じゃあ、楽だね」と振り付けを始めました。

――羽生選手に対してどんなイメージを持ちましたか?

 一生懸命な選手だなと。本当に集中しているというか。1個何かをすると、他は何も聞こえない選手なんだなと思いましたね。

――何かこだわりは感じましたか?

 最初は僕の動きを一生懸命コピーをするようにしてやっていたんですけど、そこからより自分らしくできるように動いていました。だからコピーの後に自分のこだわりを入れるんですかね。まずはしっかり見てコピーをすることを重視していました。

100パーセント以上の感情を出す

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羽生の競技者としての強さは「自己暗示が強い」ところだと宮本は言う【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

――他の選手と決定的に違う部分は?

 ジャンプがうまい。やっぱりそこはちょっと飛び抜けていますよね。

――表現の部分では?

 彼は適当に練習をしないんですよ。10回練習する中で、確認したいこととかがあるじゃないですか。動きが合っているかどうかというようなことですね。3分あるうちの20秒だけとか、最後の1分をやるとか、そういう感じで練習をするんですけど、彼は常に最初から最後まで100パーセント以上の力を入れて練習をする。常に一生懸命やるので、それが表現に対してもいつもより悲しく見えたり、強く見えたりというのが自然に出てくる印象を受けます。常に努力を惜しまないし、自分にも厳しいですね。

――自分に厳しいというのはどういうところで感じましたか?

 手の動きが少しずれたくらいなら、僕は「別にそこまで変わらへんよ」と思うんですけど、「いや、今のはちょっと角度が」とか彼は言いますね(苦笑)。あとジャンプに入るタイミングも、「今のはピアノの音からちょっと外れたので、僕は合わせたい」とか、「スピンのときの手はこう、足は伸びているから手は曲げたい」とか、「スピン中に手を動かしたい」とか。もう本当に曲をしっかり聴いて、こだわりがいろいろあるんだなと思います。

――細かいところは宮本さんも見ていて気づきますか?

 気づきますけど、僕はそこまで気にならなかったんです。でも本人は少しずれていたとすごくこだわるというか、気になるんでしょうね。

――振付師としての視点から見て、羽生選手の魅力はどういう部分ですか?

 やっぱり常に100パーセント以上の感情を出す動きをするというのが彼の魅力ですよね。

――競技者としての強さはどういったところに感じますか?

 自己暗示が強いというか、試合までに自分をどう持っていくかというのを練習のときから考えているんだなと。簡単にトリプルアクセルも4回転も跳びますけど、それをどう力を抜いて体力を使わずにジャンプするのか。それを普段の練習から意識して、試合にきっちり合わせてくるというのがすごいなと思います。

 

イヤホンの説明に苦笑い

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羽生のイヤホンへのこだわりは有名。宮本にも丁寧に説明してくれたそうだ【写真:田村翔/アフロスポーツ】

――宮本さんが羽生選手の競技用のプログラムを振り付けるとしたら、どんな曲で振り付けたいですか?

 難しいですね(苦笑)。でも昨シーズンのショパンのプログラム(『バラード第1番ト短調』)はぴったりだなと思いました。もし去年とか一昨年にそういう話が来ていたら、たぶんああいう曲を選んでいたんだろうなと思います。2年前に滑っているのを見て、「ピアノ曲に合いそうやな」と勝手に思ったんですよね。今はだから逆に難しいです。何をと言われたら分からないし、本人の意思が一番ですしね。

――羽生選手はどんな性格ですか?

 普通の無邪気な青年という感じです。興味があることを、とことん追求する人なんだなと思います。

――どういったことに興味があるのでしょうか?

 例えば音楽機器とかです。イヤホンは有名ですよね。僕はそんなに詳しくないので、「どういうこと?」って聞いたら、まあ最初は何言っているか分からないじゃないですか。「全然分からんわぁ」って言ったら、一つ一つ丁寧に説明してくれるんですよ。「優しい子やな〜」って(笑)。「丁寧に言っても俺はあんまり分かってないけどな」という表情をしたら、「分かってないでしょ、先生」ってもう一度きっちり(苦笑)。もっと分かりやすいように説明してくれる。だから、バス移動はすぐ時間が経っちゃう。それくらい常に何にでも一生懸命な子なんです。集中力が切れて休むというときは、本当に何もしませんからね。そんな感じです。使い分けているんだと思います。

――イヤホンについて細かく説明されて、最終的には理解できましたか(笑)?

 できてないです(笑)。でも良いものは良いんだなということは分かりましたけど。

以心伝心の出来事に驚き

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羽生とは以心伝心のような感覚が生まれたことがあるという【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

――羽生選手と話をしていて、印象に残った言葉はありますか?

「僕からは何も発信してないし、賢二先生も何かを発信しているわけじゃないけど、たぶんお互いに思っていることが、発信や受信したときに一致するんですかね」と言われたことはすごくびっくりしました。僕は振り付けのときに何も言わなかったんですけど、こういうふうにしてほしいなと思ってやったことを、勝手に向こうで受け止めてくれてたり、向こうがこうしたいなというのを僕が知らないうちに受け取って、もうちょっとこうしようというのを説明したり。それを言われたときはドキッとしましたね。

――以心伝心ですね。

 というふうに僕は感じました。振り付けが終わったあとに話したので、そういう感覚的な部分もいろいろあるんだなと思って。言わなくても伝わることがあれば、言っても伝わらないこともある。そういう不思議なこともあるんだなと思いました。

――感覚が同じということはうれしくもありましたか?

 そうですね。それは別に羽生くんじゃなくて他の人でもそうだし、やっぱりうれしいです。

――人間としての魅力はどこに感じますか?

 普段は知りませんからね(笑)。良い奴だし、男前だし、さわやかだし、きっちり喋るし、人間的には良いでしょう。僕なんかがちょっと人に頼まれて「サインお願い」って言っても「いいですよ」とすごく明るくやってくれるし。

――今後の羽生選手に期待することは?

 全種類の4回転を跳んでほしいですね。だって彼ならできそうでしょ。あと4回転半も。なんかもう突き抜けた感じでやってほしいなと思います。

――それを羽生選手には伝えたのですか?

 それらしきことは言いましたね。「ちょっと4回転全部跳んでよ」とか。そうしたら「あ、今それやってます」みたいな軽い感じで返ってきて(笑)。やっぱり天性のものがあるんですよね。素晴らしいなと思いました。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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