2015.11.28 – NHK杯 SP - web sportiva -世界最高得点更新。羽生結弦がNHK杯SPで感じた「久しぶりの気持ち」(折山淑美)

折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi 能登 直●写真 photo by Noto Sunao

11月27日に行なわれたフィギュアスケートグランプリシリーズのNHK杯ショートプログラム(SP)。この大会から、羽生結弦はSPで4回転サルコウと4回転トーループ、2本の4回転ジャンプを入れる構成にした。その理由を、羽生は前日の記者会見でこう話していた。

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NHK杯のSPで首位に立った羽生結弦

「ス ケートカナダでショート、フリーともに後半に4回転を入れるプログラムをやって、感覚的に『もうちょっと挑戦できるな』と感じました。エキシビションの練 習でイーグルからの(4回転)サルコウや(4回転)トーループをやってみたら感覚がよかったので、難しい構成ではあるが挑戦ということでやってみたいと 思って決めました。後半に4回転を入れるのは、後々ショートでも4回転を2回入れるための練習だと考えていたので、オーサーは『もうやるのか』とビックリ していましたが、スケートカナダからトロントに帰る時には決めていました」

 SP、フリーとも後半に4回転ジャンプを入れたいと思って臨んだ昨シーズンは、初戦の中国杯でそれを試みた。だが、フリーの前に衝突のアクシデントに見舞われ、結局、そのプログラムは中国杯で挑戦しただけだった。

今シーズン、その演技構成に再挑戦することになり、羽生は初戦のオータムクラシックと次のスケートカナダで試みた。ともにノーミスの演技はできな かったが、「もしノーミスでできたとしても、それは昨シーズン挑戦しようとしたことができたに過ぎないし、さほど成長したとはいえない」と考えた羽生は、 今回の新たな構成に変えることを決めたのだ。また、今シーズンの中国杯でボーヤン・ジン(中国)が4回転ルッツ+3回転トーループを成功させたことも、そ の思いに拍車をかけたのだろう。

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SPで4回転ジャンプを2回成功させ、歴代最高得点を更新した羽生

 そして、今回のNHK杯SPで、羽生はこれまでの2戦で感じさせていた後半の4回転を意識しすぎた窮屈な滑りを一変させ、伸びやかに滑った。 

 冒頭の4回転サルコウは、羽生自身が「本当にあれはよく耐えましたね。終わったあとでブライアン(・オーサー)にもそう言われました」と苦笑するように、 着氷で前につんのめってしまい、エッジの先で何とかバランスを保つジャンプになった。だが次の4回転トーループ+3回転トーループは、6分間練習でも見せ ていた完璧なジャンプ。GOE(出来ばえ点)で2・57点の加点をもらう出来だった。

その後のフライングキャメルスピンもスピード十分のレベル4でGOEも2点と3点が並び、後半に入ってすぐのトリプルアクセルも完璧に決めた。そし て、ステップシークエンスも気合いが入った切れ味の鋭い滑りでレベル4をもらうなど、躍動感あふれる見事な演技を披露。歴代世界最高の106・33点を獲 得したのだ。

「とにかくこの1カ月間は、自分でもビックリするくらいに一生懸命練習をしてきましたから(笑)。正直言って、楽しかったで す。第1グループでボーヤン・ジン選手が95点台を出したのも、モニターにも映っていたので知っていました。彼は自分ができることを精一杯やったからその 得点が出たのだろうから、僕も僕のできることを一生懸命やるだけだと思っていました。失敗を恐れながらではなく、久しぶりにワクワクしながらやれました。 完璧ではなかったけど全部のジャンプを立ったので、そのうれしさも久しぶりでした」

 さらに、気合い十分の“魅せる”ステップができた要因については、「最後のトリプルアクセルも気持ちよく決められてスピンも思い切り回れたので、気持ちよく演技ができたという感じです」と手応えを語った。

 2シーズン目になる『バラード第1番ト短調』だが、これまで「『なかなかノーミスをさせてくれないな』という(ノーミスに挑戦する)楽しさもあった」という。そして、ついに今回、ノーミスを達成したのだ。

「このピアノの旋律(のプログラム)をやっと自分の心から(演技することが)できたと思うので、その意味でも楽しいプログラムだなと思いました」と笑みを浮かべる。

 そんな喜びの表情を見せた羽生は、すぐに次を見据えた。

「本当は(106・33点という)得点に、もっと驚かなければいけないのだろうけど、やっとノーミスでできたという思いの方が大きかったので、あまり驚きませんでした。それより今は、フリーへ向けてしっかり気持ちを切り換えていかなければいけないな、と思っています」

 今シーズンはいまひとつ波に乗り切れない内容が続いていたが、この日のSPでやっと納得のいく結果を出した羽生。解放された心で、新たな世界を描き出すフリープログラムの『SEIMEI』へと、自信を持って歩を進めていく。

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