2015.12.10 – web sportiva - ファイナル3連覇へ。羽生結弦のコンディションを現地レポート (折山淑美)

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●写真 photo by Noto Sunao

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相性のいいバルセロナのリンクだけに、好結果への期待が膨らむ

 

 グランプリファイナル開幕前日、12月9日に行なわれた男子公式練習。羽生結弦の動きは、スケートカナダやNHK杯のときのような「絶好調」といえるほどではなかった。

「たぶん疲労はあると思うけれど、(シリーズ最終戦の)NHK杯に出てファイナルへ来ている選手は女子も男子もペアもダンスを含めてもいるわけですから、それはあまり関係ないんじゃないですか」

 NHK杯に出場した他の選手とそれほど変わらないとはいうが、トータル322・40点を出した演技は自身の持てる力をすべて振り絞ったもの。その疲労は、自分では認識できていない体のどこかに、わずかでもまだ残っているはずだ。

  それでも、公式練習ではトーループとサルコウの4回転ジャンプを1本ずつ決めると、順番が2番目だった曲かけの練習でも、最初の4回転サルコウを軸が少し 斜めになりながらも決め、4回転トーループ+3回転トーループの連続ジャンプとトリプルアクセルもきっちり決めた。さらに2回のスピンもスピードに乗った 滑りを見せると、そのあとも危なげなく連続ジャンプを含む4回転ジャンプを成功させた。

「NHK杯の高揚感のようなものは、今はもう関係ないですね。ファイナルまでが短い期間だったからなのか、NHK杯が終わったあとは『これから(あ の得点を)意識するだろうな』と思っていましたけど、今はとくに最高得点も意識していないし、演技に対する期待感もあまり感じていないです。非常に集中し た、いいコンディションかと思います」

 NHK杯が終わってから、ファイナルの開催地バルセロナへ向けて出発するまでは8日間しかなかっ た。そのため「調整をしっかりしなければ」という方に意識が集中して、NHK杯の映像は何度も見たが、その結果を自分のなかで消化するほどの時間はなかっ た。そんな理由もあり「今はどこか吹っ切れているような気がする」と言う。

「ここではNHK杯の時のようなテンションでいかなくてもいいか な、と思っています。あのテンションでここでも演技をしていいものかといえば、僕はそれが正解だとはいえないと思うので……。この会場で行なわれるこの大 会、この試合でできるコンディションづくりや集中のしかたを、うまく引き出せればいいなと思っています」

 バルセロナへ来る時に思っていたのは「去年と同じようならいいな」ということだった。氷の感覚や会場の音の反響など、「気持ちよく滑れたという印象があった」からだ。羽生は、ここでまた滑れることが「すごく楽しみだった」と言う。

「実際に滑ってみたら自分が好きな氷でしたし、去年と同様に滑っていて気持ちのいいリンクだったので安心しました。『このリンクで滑れて幸せ』とい うのはあります。練習と試合は別物ですけど、その別物の舞台で練習の成果を見せることができて、気持ちよく滑れればいいなと思っています」

 12月7日に21歳になり、最高得点を記録したこともあって、他の選手から「おめでとう」と声をかけられていた羽生。「みんなうれしそうな顔をしていながらも、(これから試合があるので)ピリピリした空気も出ていました」と笑う。

 そんな雰囲気を楽しみながら、いつもと同じような平常心で、普通の大会として臨みたい。羽生はそんな心の準備もできているようだ。

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