2015.12.11 – web sportiva -羽生結弦、また異次元へ。ファイナルSPの世界最高得点演技を分析 (折山淑美)

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●写真 photo by Noto Sunao

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ファイナルのSPで世界最高得点を更新した羽生結弦

12月10日のスペイン・バルセロナ。2週間前のNHK杯ショートプログラム(SP)で史上最高の106・33点を出していた羽生結弦が、グランプリファイナルのSPに登場。その演技は、「すごい!」としか言いようのないものだった。

午前の公式練習では4回転トーループが決まりきっていない状態で、6分間練習でもその不安を引きずっていたものの、本番になるとそれはもはや関係なかった。

「意 外と緊張していました。でも緊張しているなかでも、自分に緊張感があるということを認識していました。NHK杯のフリーのときに近い感覚でしょうけど、そ ういう状態ではどうしたらいいんだろう、というのを考えながら滑れたと思います。ただ、ショートに入る前は会場のモニターを見て、『制限時間があと1秒し かない』と焦りましたけど……」

 冒頭、練習でも成功する確率が高かった4回転サルコウをパーフェクトに決めた羽生は、次の4回転トールー プ+3回転トーループの連続ジャンプはこの日一番ともいえるきれいなジャンプ。この2種類のジャンプはともに、9名中8名のジャッジがGOE加点で満点の 3点をつける出来だった。

これで気持ちが乗ったのか、羽生の演技は力強さと迫力に満ちあふれたものになっていった。スピードに乗って回転したスピンはすべて最高レベルの4。 後半に入ってすぐのトリプルアクセルも難なく決めると、「レベル3だったのでそこが反省点です」と羽生自身は言っていたが、ステップも力強く踏み続けた。

 その演技は、2014年ソチ五輪SPの『パリの散歩道』で感じたような、自信に満ちあふれた雰囲気があり、羽生自身、演技終了直後の表情でうっすらと満足の笑みを浮かべるほどだった。

  演技を評価する演技構成点は、最低がトランジション(要素のつなぎ)で9・61点。動作や身のこなしのパフォーマンスは9名中8名のジャッジが10点をつ けて満点の10点を獲得し、振り付けと曲の解釈では9点台後半の得点だったが、ジャッジ9名中6名が満点の10点をつけていた。

「この『バ ラード』は昨シーズンから使っている曲で、1年間しっかり練習をしてきましたし、NHK杯でノーミスをしてやっと自信もついたところです。やっぱり曲を聞 き込んできているというのはすごく大事ですし、これまで積み上げてきたものは絶対に無駄ではなかったと思う。それに加えて、ジャンプも不安がないとは言わ ないですけど、ひとつひとつがしっかり決まっていたから、より自分がピアノの曲に乗っていけたと思います。ジャンプはもちろんですけど、スピンやステップ も曲の一部として決まっているからこそ、評価をもらえているのではないかと思います」

 NHK杯のフリーで、自分の心の中に芽生えてきた「緊張感とのつきあい方のコツ」をつかんだ羽生。

 選手はどうしても、一度完璧な演技ができてしまえば、それを再現しようという意識になり、心のどこかには守りの気持ちが生まれてしまうものだ。だが、彼は攻め続けることで、そんな守りの意識を吹き飛ばしている。

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