2015.12.14 – web sportiva -「得点だけではない」。羽生結弦が世界最高のその先に目指すもの (折山淑美)

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●写真 photo by Noto Sunao

12月12日のグランプリファイナルの男子フリー。ショートプログラム(SP)で歴代史上最高の110・95点を出した羽生結弦が演技を始めたとき、それを見ている記者としては、高得点への期待感より不安の方が上回っていた。

  この日の朝、連戦の疲労が「ピークに達していた」と言う羽生。彼が常々話しているように、SP、フリーともノーミスの演技をするのは極めて難しいこと。 ノーミスの演技をすれば、当然のようにNHK杯の322・40点を上回る結果になる。「2大会連続でそれが実現するのか」という思いが、どこかにあった。

世界最高得点を更新して、GPファイナルで3連覇を達成した羽生結弦

直前の6分間練習で少し腰が落ちてしまう着氷になっていた4回転サルコウを完璧に決めても、次の4回転トーループをきれいに決めても、その不安は消えなかった。

 そのあとも、ジャンプをひとつ決めるたびに安堵と不安が交互に去来する。ようやくホッとひと息つけたのは、シーズン序盤のオータムクラシックやスケートカナダでミスが出ていた最後の3回転ルッツをきれいに決めてからだった。

 それは当然、羽生自身も感じていることだった。

「直前の6分間練習でもジャンプに不安要素が出てしまい、それを修正できないまま練習が終わってしまった。それにプラスして、最初のパトリック(・ チャン)選手の演技がよかったということが観客の大歓声でわかっていましたし、そのあとの宇野(昌磨)選手の演技がよかったことも歓声が聞こえてきました から。極めつけは、自分の前のハビエル(・フェルナンデス)が200点超えで『やばいな……』と。自分で自分を追い込んだところもありましたが、NHK杯 の前にたくさん練習できて、そのあともしっかり練習してきたので、何とかなったのだと思います。演技の途中で徐々に不安はなくなってきましたけど、明確な 記憶としてあるのは、前半の4回転トーループを跳んだ時に少しホッとしたことだけです」

 羽生自身、「いっぱいいっぱいだった」というフ リーの演技。NHK杯ではGOE(出来ばえ点)満点の3点加算はトリプルアクセル+2回転トーループだけだったが、今回は最初の4回転サルコウと4回転 トーループもGOEは満点で、技術点を120・92点にした。そして、演技構成点は9名のジャッジが10点満点をつけた項目は23。合計で98・56点を 獲得した。この結果、歴代最高の219・48点を獲得し、合計も330・43点と他の追随を許さない得点をたたき出した。

「ここへ来るま で、本当にたくさんの方が調整のペースやピークを考えてくださった。もちろん、僕自身もここに入る前からしっかり考えてやって、フリーにピークを合わせよ うという狙いがありました。練習はそれほどよくなかったので、それがしっかりできたかどうかはわからないです。でも、自分で考えて練習をしてきたという自 信はあったので、それは出せたかと思います」

これまでSP、フリーともに「ノーミスの演技は、地方大会くらいでしかやったことがなかった」という。だが今シーズンはそれを、NHK杯とファイナ ルという大舞台で続けてできた。そのことに驚くとともに、昨シーズンアクシデント続きで満足に練習できなかったことを思うと、「練習が思うようにできる身 体、それに耐えることができる身体であることが幸せだと思う」とも言う。

 驚異的な高得点を出した羽生だが、自分ひとりが飛び出したという意識はない。

「実 際、今回のハビエルの演技には驚きましたし、『やばいな』と思いました。別に得点がどうこうじゃないんです。今は得点もすごく注目されて『これが世界最高 得点の演技』と、メディアもファンもワーッとなっていて、たしかにそれもうれしいことですけど、自分が目指しているのは、『自分の演技をどれだけ究められ るか、ひとつひとつの要素を究めていけるか』ということなんです。点数を見てすごいなという方もたくさんいらっしゃるかもしれないですけど。僕自身は僕の 演技が好きだと思ってもらえたらうれしいですし、『すごい』『感動した』『また見たい』と言われるような演技を、ジャンプも含めてこれからできるように練 習をしていきたいと思っています」

今回のファイナルで、羽生は300点超えが特別なものではなく、いつでも出せる可能性があるものだと証明した。また、その記録はいずれ誰かに更新されていくものでもあるだろう。

 NHK杯、ファイナルでの連続300点超えで、羽生はフィギュアスケートの持つ可能性を大きく広げた。そして、さらに上を目指す意欲を、彼は持ち続けている。

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