2016.09.15 - web sportiva - 羽生結弦、今季プログラムは超高難度。 「内容の濃さを楽しんで」

YUZURINK中翻

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao
 9月13日にカナダ・トロントで行なわれた羽生結弦の公開練習。そこで発表されたのは、ショートプログラム(SP)はプリンスの『レッツゴー・クレイジー』、フリーは久石譲作曲の『ビュー・オブ・サイレンス』と『アジアンドリームソング』を合わせた曲で、タイトルを『ホープ&レガシー』と名付けた2016―2017シーズンのプログラムだった。

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カナダ・トロントで公開練習を行なった羽生結弦 
 また、羽生は今年4月に行なわれた世界選手権以降の、足のケガの治療経過についてこう話した。 
「最初の1カ月半はリハビリすらできず、歩くのも禁止状態で治療に行くとか食料を調達しに行く以外は基本的に歩かない生活でした。それが終わってから3週間くらいリハビリをして、氷上に上がったのは休み始めてから2カ月と1週間後くらい。
 その時もまだ足は痛かったんですが、徐々に徐々に慣らしながらここまで来たという感じです。痛めていた左足に負担がかかるトーループに関しては、コンビネーションを含めてなかなか練習をすることができないで、1日に1、2回なら跳んでいいよとなったのがここ2、3週間前のことです」

そう語った羽生が、宇野昌磨の4回転フリップ成功のニュースを聞いたのは、歩くこともできなかった時期だった。
「それを聞いたときはもちろん悔しかったですし、自分も早くやりたいという気持ちも強かったんですが、自分がまったくスケートをできない時期だったので、逆に焦りすぎなくてよかったのかなとも思います。もし滑れる状態だったら焦って氷上に上がっていたかもしれないし、それで、もしかしたら違うところをケガしていたかもしれない。
 また、変なフォームになって崩れていたかもしれないですし……。ある意味、安静期間だったというのがあったからこそ、いい意味で力を蓄えられたかなと思います」
 こう話す羽生は、「それは今になってみてですけどね。その頃はメチャクチャ練習をしたいと思っていましたけど」といって苦笑した。
 そんな状況から練習を再開した時、最初に跳ぶことができたジャンプは左足を使わないループと、比較的左足に痛みが出ないルッツだったという。こうしたケガの影響もあって、昨シーズンにはアイスショーなどで挑戦していた4回転ループに取り組み、今季のプログラムに入れることを決めた。それは昨シーズンの年明けからの世界選手権へ向けた練習で、痛めている左足の影響でトーループの練習がほとんどできなかったため、後半の4回転をトーループからサルコウに変更したのと同じ考えでもある。

今季のプログラムは、SPが試合で成功すれば史上初となる4回転ループを最初に入れ、次に4回転サルコウ+3回転トーループの連続ジャンプ、そして後半にトリプルアクセルを入れる構成だ。
 フリーは最初に4回転ループと4回転サルコウの単発ジャンプ、中盤に3回転フリップ。そして後半に4回転サルコウ+3回転トーループの連続ジャンプを入れ、その後に単発の4回転トーループ、それから、昨シーズンと同じようにトリプルアクセルからの連続ジャンプと3連続ジャンプをふたつ入れ、最後に3回転ルッツを入れる難度の高い構成になった。
「ショートの『レッツゴー・クレイジー』はアップテンポの曲でリズムもすごく速くて、観ている人もエキシビションのように楽しめるプログラムです。その中でも競技用のプログラムとして難しさだったり、内容の濃さを楽しんでもらえればと思います。フリーの方は、テーマとしてはすごく雄大なものだと思いますし、日本人作曲ということで日本的なメロディラインもあると思います。ただ、テーマがガッチリ決まっている曲ではないので、風であったり木であったり水であったりを、自然に表現したいと考えています」

羽生にとって、今季のプログラムは4回転ループを入れた超高難度のものであると同時に、SPの『レッツゴー・クレイジー』では激しく踊る姿を、そしてフリーの『ホープ&レガシー』では昨年までのSPの『バラード第1番ト短調』やエキシビションナンバーの『天と地のレクイエム』で自分の中にため込んできた、曲の中に入り込んで体や心が感じるままに演じる表現方法をさらにレベルアップしようとする試みだ。さらに、両極端の表現への挑戦でもあり、表現の幅の広さが求められる。
 トロントでの公開練習では、SPはジャンプの失敗はあっても曲を通した練習をして、最後のステップではこれまでにない切れ味の鋭いステップシークエンスも披露していた。
 一方のフリーは通し練習こそしなかったが、細かな動きについてトレーシー・ウィルソンコーチのアドバイスを受けながら作り上げようとしている状況だった。
 羽生結弦の新たな挑戦のシーズンが、カナダで動き始めている。

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