2016.10.03 - ACI FS - web sportiva - 羽生結弦、不満が残った初戦に 「こういう状況は一番楽しいです」

YUZURINK中译

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi能登直●撮影 photo by Noto Sunao

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今季初戦、オータムクラシックで優勝した羽生結弦
 カナダのモントリオールで開催されたフィギュアスケートのオータムクラシック2日目、フリーを控えた昼の公式練習で、羽生結弦は少し考えている時間が多かったように見えた。さらに、試合直前の6分間練習では終盤に試みた4回転ループ3回がすべてパンク。それにも関わらず、フリー本番ではキッチリと着氷してみせた。
「最近は練習の時にも氷に上がってから3分くらいで体を仕上げて、すぐに曲かけをするという練習を時々やっていますが、その時はループの練習をしないんです。だから6分間練習でループをミスしてもそのままにしていました。昼の公式練習の時には、何もしないでただ場所を変えてやっただけで、一発目できれいに跳べていたので『これは跳べるな。体が覚えているな』と思っていました」
 こう話す羽生は、次の4回転サルコウも決めると、スピードのある動きでコンビネーションスピンをこなし、大きくゆったりとした動きの中にキレもあるステップで伸びやかに滑った。ピアノの曲に身をゆだねて舞うような、流れのある演技。強い音がない曲だからこそできる、しなやかな感情が伝わってくるステップだった。

 だが、前半最後のジャンプだった3回転フリップの着氷で詰まって流れが少し途絶えると、そこからはスピードが落ちた。後半に入った最初の4回転サルコウからの連続ジャンプは3回転+2回転になり、次の4回転トーループは回転不足で転倒。
 その後のトリプルアクセル+2回転トーループはきれいに決めたが、続くトリプルアクセルからの3連続ジャンプはアクセルの着氷が乱れ、とっさに1回転のトーループと1回転ループをつけるだけにとどめた。そして最後の3回転ルッツは踏ん張ることもなく転倒してしまい、疲労困憊で演技を終えた。
 結果、フリーの得点は172・27点。合計を260・57点にして優勝はしたものの、納得のいく出来ではなかった。
 ミックスゾーンで報道陣に答えた羽生は、「こういう状況で取材を受けるのは、一番楽しいですね」と言って笑みを浮かべた。それは、あまりにも納得がいかない結果に直面し、「もう開き直って前を向くしかない」と自分に言い聞かせているような表情だった。

「今回はレベルということを意識してやって、ステップのレベルやスピンのレベルを上げるためにひとつひとつ本当に丁寧にやったつもりです。僕自身フリーのこの曲(『ホープ&レガシー』/音楽 久石譲より)がすごく好きですけど、自分の演技ではエキシビション以外は笑顔で滑るというか、心の底から曲に乗って滑るというのはなかなかできない。特に試合前半はそうですけど、今日は最初から曲を体中で感じて、その上に乗ろうと意識しながらできたという点では、前半は非常に気持ちよく滑れたと思います」
 羽生はこう言って前半の流れのいい滑りには納得しているようだった。さらに、「意識した」と言うステップとスピンのレベルはすべて4と、狙い通りにできていた。だが、ジャンプに関しては、「前半のふたつの4回転だけに頭がいってしまった」と反省する。
「結局、見ての通り、かなりバテた感があったと思います。ただ、試合でバテた感じをつかめたのはよかったと思いますし、何よりもこの試合によって練習の目標設定というのがだいぶ変わったと思う。そこが一番よかったと思います。
 今回は、ショートもフリーもステップにはかなり注意を向けてやってきて、ひとつひとつのエッジや上半身の動き、流れというものをすごく意識できて心がこもった滑りができたと思いますけど、その中での呼吸の仕方とか、そういうものが足りなかったと思います」

 つまり、ステップや滑りに意識を向け過ぎてしまい、無酸素運動になってしまったのがスタミナのロスにつながったのではないか、ということだ。
 さらに、ジャンプもほとんどが少し詰まった感じになってしまい、着氷後の流れをうまく作れなかったことで、余計に力を使ってしまった部分もあるだろう。その辺りを見直して、もっと効率のいい跳び方をしていけば、「ここまでのスタミナのロスにはならないと考えています」と羽生は言う。
「4回転を4本入れるプログラムはやっぱりしんどいですね。でもしんどいからこそ楽しいし、何か燃えますね。日本ではジャパンオープンで宇野(昌磨)選手が(フリーで)198・55点を取っていたし、ハビエル(・フェルナンデス)も素晴らしい出来でした。その中で自分がこのような演技をしたのは不甲斐ないなと思います。
 でも、その不甲斐ないという気持ちは、本当はマイナスなんだろうけど、今はぜんぜんマイナスだとは思えなくて、むしろ、早く練習して次に(試合に)出た時にはひと皮とはいわず、10でも20でも皮がむけたようになって、『こういう羽生結弦を待っていた』と言われるように練習をしていく。それが、今はすごく楽しみなんです」

 こうした気持ちになったのは、不甲斐ない演技になってしまった「昨シーズンのスケートカナダ以来です」と羽生は言う。あそこから羽生は300点超えへと突っ走った。
 ケガから復帰して以降、思うように練習量を増やせずにいたなかで、今回の納得できないオータムクラシックの結果は、彼の負けん気に再び大きな火をつける契機になったようだ。

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