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2016.11.26 - web sportiva - NHK杯SP首位発進も、羽生結弦が感じた「シュッ」の微妙なズレ

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao

11月25日のNHK杯男子ショートプログラム(SP)。羽生結弦は最初の4回転ループを完全に回りきりながら、着氷で重心が後ろにかかり過ぎてステップアウトになってしまった。だが、その後の4回転サルコウ+3回転トーループを決めて勢いに乗ると、後半のトリプルアクセルはGOE(出来ばえ点)加点が満点の3点。スピンとステップもレベル4を取って103・89点を獲得し、文句なしの首位となった。

http://i.imgur.com/HC1vTus.jpg
NHK杯SPでトップに立った羽生結弦 
今シーズン3試合目にして初めて実現した勢いをつけられる演技に、羽生は笑顔だった。
「やっとプログラムらしくなってきたという感覚があります。ただ、このプログラムに関しては、もっといろんな意味を込められると思っています。まだ勢いだけの10代のスケートみたいになっているので、それだけではなく、環境とか歌詞の奥の方にあるものを、ジャンプを含めて追求していけたらいいと思います」

この日の試合へ向けて、羽生は入念な準備をしていた。昼に行なわれた公式練習では、4回転ループをいきなりきれいに成功させるなど、単発のジャンプはキッチリと決めていた。ところが、曲かけの練習になって、最初の4回転ループがパンクして2回転に。その後の4回転サルコウからの連続ジャンプは決めたが、少し間を置いて跳んだトリプルアクセルもパンク。ただ、そうしたジャンプのミスはあったものの、つなぎの滑りに対してかなり気を配っている様子で、本番前の気持ちのたかぶりを抑えているようにも見えた。
 ジャンプは単発できれいに跳べていたことを考えると、曲かけでのミスは不安を感じさせるほどではなく、実際、ジャンプに不安はないことを競技直前の6分間練習で証明した。集中した表情になると、4回転ループも一発目できれいに決め、ミスはなかった。
 それでも、冒頭の4回転ループに少しだけ乱れが生じた。羽生本人は自らのジャンプを「シュッと行って、パッと降りるだけです」と説明するが、この日の4回転ループはその”シュッ”が少し狂ったという。その”微妙なズレ”が、重心を少しだけ先に進め過ぎる結果になったのだろう。

しかし、回転しきっていたという点が、今シーズンこれまでの2試合とは大きく違っていた。羽生は「公式練習は動ききれていないという印象がありましたけど、曲かけ以外ではずっといいジャンプが跳べていました。その点では明日のフリーでも、公式練習と6分間練習と試合をしっかり分けて、自分の中でいい状態にくっつけながらやっていければと思っています」と言う。
 SPの演技が終わった瞬間、羽生はリンク上で少しだけ悔しそうな表情を見せた。
「カナダより成長できた部分は多々ありますし、自信を持ってこのプログラムに向かうことができました。それに、日本での試合ということで、楽しみながらできたかなと思います。ただ正直、もうちょっとできたなという思いが強かったですね。冷静に考えて、4回転ループを成功させればあと5点くらいは伸びていただろうし、他の部分でももう少し得点を積み重ねることができるはずです」
 つまり、4回転ループ以外の要素も、まだ完成していないということだ。後半のトリプルアクセルからのシットスピン、ステップシークエンスでも、もっと攻める演技ができるだろう。『レッツゴー・クレイジー』はそれができるプログラムであり、その点を羽生はこう説明する。

「昨シーズンのショートと違ってすごくテンポも速くて、スケーティングを魅せるのではなく、表現力が試されるプログラムなので、その面でもこれからもっと磨いていけると思います。僕自身の武器のひとつに”荒さ”というところがあるので、自分の勢いや荒さを生かせるようにどんどん磨いていきたい」
 羽生がこう話すような荒々しいまでの勢いを終盤のステップで表現し、同時に冷静さも持ちながら演じきることが、このプログラムの完成形といえるだろう。そして、その “動”のSPに対し、フリーでは勢いや荒々しさを心に秘めて”静”の演技につなげようとしている。
「フリーでも、まずは4回転ループをしっかり決めることが大事だと思っています。スケートカナダに比べていい状態でショートに挑めたので、その感覚をもっと研ぎ澄ませればと。ジャンプがきれいに決まらないとプログラムとして成立しないと思っているので、一つひとつのジャンプを決めつつ、表現やステップ、スピンがひとつのプログラムとして染み込むような演技をしたいと思います」
 勢いをつけることに成功したSPの演技を、フリーにつなげられる状況になった今回、羽生がどんな演技を見せてくれるのか、とても楽しみになってきた。

sportiva.shueisha.co.jp