2016.11.27 - web sportiva - 次のステップへ。羽生結弦が語る300点超えの優勝よりも重要なもの

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao

11月26日のNHK杯男子フリー、羽生結弦は最初の4回転ループを空中で軸が斜めになりながらも成功させた。

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2年連続の300点超えでNHK杯優勝の羽生結弦
「ショートと同じように斜めになってしまいましたけど、今日は自信を持ってできたので、それはよかったです。練習でもバンバン決まっていて、自分でも気持ちよく本番に臨めたというのはありますし、今日はそんなに『ジャンプを跳ぶぞ』という構えはしないで、自分にとってはイージーな入り方だったで、その面でも安心しながらできたのかなと思います」
 競技前の6分間練習でも、羽生は集中していた。
 最初に3回転ループを跳ぶと、次はトリプルアクセルからの3連続ジャンプをきれいに決めた。続く4回転トーループで転倒したものの、もう一度挑戦して成功させると、4回転サルコウもきれいに決め、最後には4回転ループをキッチリと降りた。

名前をコールされる直前の滑りでも、いつもであればトリプルアクセルを跳ぶところを、この日は3回転ループを2回跳び、最後はサルコウの入りを確認するだけにとどめて、ループの感覚を優先していた。
 羽生には4回転ループへのこだわりがあった。スケートカナダのあと、彼はブライアン・オーサーコーチから「トータルパッケージを大事に」と言われ、話し合ったという。オーサーの目には、彼が4回転ループに集中し過ぎて、ほかの要素が犠牲になっているように見えたのだ。
 羽生はその意見に対し、「4回転ループも演技の一部だからまずそれをやりたい」という思いを率直に話した。彼自身、演技を完成させるということは、プログラムに入れたジャンプを、それがどんなに難度の高いものであってもきれいに跳ぶことを前提条件と考えているのだ。
「スケートカナダまではジャンプのためのスケーティングを重視してやっていましたが、そのステップをカナダで達成できたので、スケートとジャンプを一体化するトータルパッケージを作っていこうと(ブラインアン・オーサーコーチと)話しました。その話し合いもあって、4年目にしてさらに垣根がない関係になってきたと思いますし、その後の練習の質も内容もよくなってきたと思います」

まずは4回転ループを完成させなければ始まらないという段階から、次のステップへと進めることができた。だからこそ、この大会で4回転ループを決めなければいけないと羽生は考えたのだろう。そのため、彼自身「4回転ループを跳ぶためにスピード的にはかなり飛ばしていった」という演技の入りになったのだ。
 ループを決めた後は4回転サルコウもGOE加点2・29点をもらう出来で、コンビネーションスピンはスピード感のある回転だったが、続くステップはややスピードが勝ってしまう滑りで評価はレベル3に。後半に入ると最初の4回転サルコウで転倒し、その後もトリプルアクセルからの3連続ジャンプでサードのサルコウが2回転になるミスが出て、プログラム全体の流れが少し途切れてしまうような演技になってしまった。
 それでもフリーで197・58点を獲得。トータルは昨年のグランプリファイナル以来の300点超えとなる301・47点で、2位のネイサン・チェン(アメリカ)に30点以上の大差をつける圧勝となった。
「去年300点台を出したときは320点とか330点でその時と比べると301点は低いですが、ショート、フリーともにミスが出たなかでの300点超えですから。今日はスケートをやっていてすごく楽しかった」

羽生自身がそう語ったとおり、今シーズン、さらに進化したプログラムのレベルの高さと、技術力や表現能力の高さを示す優勝だった。
「去年の300点超えはすごく嬉しかったですが、今回はホッとしました。もちろん、完璧にやらなくてはいけないとか、ショートで100点を超えたから合計で300点を取らなくちゃいけないとか、いろんな思いがありました。4回転ループに関してはもっときれいに跳べますし、他のジャンプもまだまだきれいに跳べるはずですから伸びしろがある。まだ表現も足りないですし、スケーティングやステップ、スピンも足りないと思います」
 このフリープログラムを作るために選曲や構成を考えた時、「トータルでの表現」を考えたと羽生は言う。その点では「もっともっと演技を突き詰められるし、微妙な呼吸感のようなものまで伝えられるプログラムにもできるはず」と意欲を見せる。
「今シーズンのふたつのプログラムを自分が楽しめる余裕が出てきて、お客さんと少しずつコネクトできるようになってきました。それが今回の成果だと思います。その点では、やっとベースができてきたなと。スケートカナダの時はベースも何もなくて、崩れ落ちてしまったというのが自分の中の感覚にありますから」
ショートプログラムでは最初の4回転ループでステップアウトしたが、それ以外はミスのない納得できる演技ができた。そして、フリーでは後半にミスは出たものの、スケートカナダで苦しんでいた4回転ループを決めることができた。その意味でも羽生はこのNHK杯でやっと、自分の新しい演技を突き詰めていく準備ができたといえる。
 2018年平昌五輪も視野に入れた今シーズンの羽生結弦の戦いは、ここからまた始まる。

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