2016.12.12 - web sportiva - 「悔しい」を連発の羽生結弦。GPファイナル4連覇でも演技完成を急ぐ

YUZURINK中翻

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi  能登直●撮影 photo by Noto Sunao

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 12月10日のグランプリ(GP)ファイナル男子フリー。前々日のショートプログラム(SP)で106・53点を出してトップに立っていた羽生結弦の前半の滑りは、300点超えを確信させるものだった。
 最初の4回転ループは「今日も耐えるような着氷になってしまった」(羽生)が、乱れはほとんどなく、GOE(出来ばえ点)も加点された。その後の4回転サルコウも余裕を持って決めると、スピードのあるコンビネーションスピンを見せる。ステップシークエンスもしなやかに滑り、そのままの流れで3回転フリップを成功。羽生らしさを存分に見せる前半だった。
 ところが、後半はNHK杯と同じように4回転サルコウで転倒。その後、4回転トーループ、トリプルアクセル+3回転トーループを決めて持ち直したかに見えたが、続くトリプルアクセルで着氷を乱し、つなぎの1回転ループはタイミングが乱れてダウングレード、3回転サルコウは2回転になるミスになった。さらにコリオシークエンスからは少しスピードも落ちてきて、最後のジャンプとなる3回転ルッツはパンクして1回転に。
 終盤にミスが連続してしまい、結局、フリーの得点は187・37点。3種類4回の4回転をすべて決めて197・55点を出したネイサン・チェン(アメリカ)と、4回転フリップを決めるなどミスを最小限に抑えて195・69点を獲得した宇野昌磨に後れをとり、フリーは3位にとどまった。
 それでも合計293・90点でその時点の1位となり、ハビエル・フェルナンデス(スペイン)とパトリック・チャン(カナダ)の演技を待つことになった。
 フェルナンデスは出だしから耐える演技になり、後半の4回転サルコウとトリプルアクセルでミスを連発して177・01点。羽生を7点弱の差で追っていたチャンも、最初の4回転トーループと次のトリプルアクセルで転倒。さらに後半のトリプルアクセルでも転倒と脆さを見せ、166・99点。この結果、羽生のGPファイナル4連覇が決まった。

「トータルで考えてショートはよかったですし、結果的に4連覇という目標を達成できたことはよかったです。でも、演技自体は満足しきれないです。やっぱりフリープログラム3位というのは非常に悔しい順位ですし、ショートと比較しても最後の最後(のジャンプ)に失敗したというのは印象も悪いと思います。今日は反省点だらけですけど、どうすれば跳べたかというのも分かっているので、そういうのも含めて、全日本まで時間は少ないですけど、頑張ってやっていきたい」
 練習では、SPもフリーもノーミスの演技を何回もしていて自信はある。だから、「どちらか片方だったらうまくいく自信はつけてきている」と羽生は言う。だが、両方をノーミスで揃えるとなると、まだうまくつなぎきれないもどかしさを感じているという。
「後半の4回転サルコウもNHK杯の公式練習でけっこうな確率で降りていましたけど、今回は公式練習でも失敗が目立っていたので、その確率の低さが試合に出てしまったのかなと思います。ただ、去年の序盤と違って、後半の4回転という意識はそんなにないので、その点ではまだサルコウに対する考えが甘いのかなというのはあります。
 今は4回転ループに対しても苦手意識や『新しいジャンプ』という意識もなくなっていますし、トーループやサルコウに関しては自信を持って跳べるジャンプなので、後半のジャンプとしてどのようにやっていくかをもうちょっと考えなければいけない。周りの意見も取り入れていきたいです」

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 今シーズン、ケガの治療でスタートが遅れたことが今の成績に「関係ないし、ブランクはない」と羽生自身は言い切る。だが、ANAの城田憲子監督が「本当に追い込む練習ができるまで4カ月間空いたのは(調整への影響が)大きい。今はその分を徐々に詰めている段階」と言うように、その影響はやはりどこかにあるはずだ。
 それでも、ここから調子をまだまだ上げていけると考えれば、2018年の平昌五輪にピークを合わせるためのシミュレーションができているともいえる。

 羽生はこう言う。
「誰からも追随されない羽生結弦でありたいと思っているので、今シーズン難度の高い構成にしても、まだ昨シーズンの自己最高得点に並ばないというのは悔しいです。ただ、今シーズンはいい挑戦ができていると思います。今年の前半を振り返れば、ハッキリ言って最悪だったなと思いますし、メチャメチャ悔しい。今の技術構成を来シーズン完成させられればと考えていましたけど、今の悔しさ的には、もう今シーズンの後半には完成させたいと思うようになりました」
 4回転ループを入れて技術難度を上げただけではなく、今季のプログラムでは「観客とコネクトすること」も羽生は目標にしている。表現面も意識して演技をすることで、ジャンプに対する意識の比率に多少の影響があるはずだ。だからこそ、今の技術構成でプログラムを完成させるには時間がかかると考えていたのだろう。しかし、納得できない演技が続いたことで、そうした思いも吹き飛んでしまったようだ。
 そんな羽生の意地と覚悟がどう結実していくのか。期待を込めながら、焦らずにゆっくりと待ちたい。

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