2017.04.01 - web sportiva - 笑顔の宇野、失意の羽生。 逆転優勝にはフリーで200点台が必須に

Worlds SP

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi能登直●撮影 photo by Noto Sunao
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/othersports/figure/2017/04/01/_split_200/

 3月30日に行なわれた、世界フィギュアスケート選手権の男子ショートプログラム(SP)は波乱の展開となった。

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 第5グループでは、四大陸選手権覇者のネイサン・チェン(アメリカ)が、6分間練習で何度も感覚を確かめていた後半のトリプルアクセルでまさかの転倒。その前に滑ったボーヤン・ジン(中国)に1.31点及ばない97.33点(6位)にとどまった。
 最終グループでも不穏な流れは続いた。
 第1滑走の羽生結弦は、直前の6分間練習では4回転サルコウ+3回転トーループを余裕で跳び、4回転ループも軸の細いジャンプで決めるなど、本番へ向けて好調さを見せつけていた。
 演技前、ブライアン・オーサーコーチと話をしている最中に名前をコールされ、演技に入るまでの時間が2秒オーバーして減点1を取られたものの、最初の4回転ループは今季最高ともいえる出来で決めた。そこから、6分間練習と同じように気を配った丁寧な滑りで、4回転サルコウからの連続ジャンプに挑んだ。
 そのサルコウも成功するかと思われた瞬間、羽生は着氷でバランスを崩して左膝を氷についてしまう。そのまま立ち上がって2回転トーループをつけたが、それは連続ジャンプと認められず、得点の対象になった基礎点は4回転サルコウの分だけ。GOE(出来栄え点)でも4点減点される結果となってしまった。
 その後はキッチリと加点をもらう完璧な滑りをしたが、得点は98.39点。その時点でトップに立っていたボーヤン・ジンを0.25点下回り、全員が滑り終わった時点で5位となった。
「跳んだ瞬間の感じはよかったけれど、降りた瞬間に『アレッ?』と思いました。映像を見たら、軸がちょっと後ろに倒れていたかなと思うけど……。1番滑走は得意だと思っているし、それにどう対応するかも考えて練習ができていた。
 6分間練習もそんなに悪くなかったと思いますが、結局ミスをしてしまったことには変わりないので。今シーズンはずっと『悔しい』とばかり言ってますが、その経験を活かせずに終わってしまい、自分に不甲斐ない気持ちでいっぱいです」

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 自信を持って跳んだ4回転サルコウでの想定外のミス。いつもは前向きな表情で話す羽生だが、この日ばかりは失意が前面に出ている雰囲気があった。
 羽生はトップのフェルナンデスと10.66点差をつけられたが、宇野が「今はジャンプをひとつ失敗すれば10点近く下がるし、順位もいくつ下がるかわからない状況。フリーでのジャンプの失敗ひとつでショートのリードがひっくり返るくらいなので、(SP2位という順位は)あまり気にせずに、フリーはまた一から作り上げたい」と話すように、大逆転の可能性は残っている。
 2位の宇野に4.19点、3位のチャンに6.92点差をつけているフェルナンデスの世界選手権3連覇が近づいたことは間違いない。彼のフリー最高点は、昨年の世界選手権で出した216.41点。仮にそれと同じ点を出せば合計点を325・46点までは伸ばせる状況でもある。
 これに対して、羽生の自己最高得点は219・48点だが、今シーズン初となるノーミスの演技ができれば、220点台後半に乗せるポテンシャルは持っている。そうなれば、自己最高の330.43点には届かないにしても、320点台まで伸ばすことは決して不可能ではない。
 羽生は最終グループの1番滑走者として登場するため、パーフェクトな演技をすれば、最終滑走のフェルナンデスを含めた後続の選手に大きなプレッシャーをかけられる。この滑走順をうまく利用した戦いをすることが、羽生の大逆転達成への絶対条件になる。
 フェルナンデスが合計点を最低でも310点台に乗せてくるとすれば、フリーで4回転サルコウを入れられるかどうかがカギとなる3位のチャンは、プログラム構成上は少し不利な立場になる。一方の宇野は、310点前後まで合計点を伸ばせる可能性があり、状況次第では逆転も可能だ。
 ともあれ、フリーの戦いは200点台の獲得が必須で、ミスを最小限に抑えた者が勝利を手にするだろう。複数の4回転を組み込んだ男子のプログラムは、女子よりもミスなく演技を終えることが難しいが、羽生の逆転優勝には、ノーミスの演技が絶対条件になりそうだ。