2017.04.22 - web sportiva - 羽生結弦が手応えをつかんだ来季の武器は4回転5本か、それとも…

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao
 4月21日の世界フィギュアスケート国別対抗戦、男子フリーの演技を終えた羽生結弦は、最後のトリプルアクセルへの挑戦を、「意地でしたね。意地のパンクでした」と言って明るく笑った。

http://i.imgur.com/WjF33iS.jpg
国別対抗戦男子フリーで1位になった羽生結弦
「あの時はいろいろ考えていたんです。イナバウアーをやってそのままアクセルにいこうか、それとも1回ホークを入れてからアクセルにいこうか、イーグルを入れてからのアクセルにしようかと迷ったんです。でも,ここまで来たらいちばん難しいことをやって最後の最後は笑っていたいと思い、いちばん難しいイーグルを入れてからのアクセルにしたんです」

 最後に挑んだトリプルアクセルはパンクして1回転半になったが、「いちばん難しいことを」と思うことでの力みもあったのだろう。それでも羽生は「パーフェクトな演技を考えれば、前半の4回転サルコウが抜けなければ、最後にトリプルアクセルを入れることができないので。その意味ではその練習はしていなかったからこそ、ちょっと疲れが出てしまったのかなと思っています。試合ではありますけど、いいトレーニングにもなりました」と、シーズン最後の演技に納得の表情を浮かべた。
 前日のショートプログラム(SP)は、羽生にとっては想像外のミスが出る演技になってしまった。最初の4回転ループはパンクして1回転になり、次の4回転サルコウは着氷で手を突いて連続ジャンプにできず、83.51点の7位。最初のジャンプをふたつともミスしたのは、今季2戦目のスケートカナダ以来だったが、公式練習からの好調さを考えれば信じられない結果だった。
 SPが終わったあとは最初の4回転ループのパンクの残像が脳裏に焼きつき、ベッドに入っても「それが頭の中に浮かんでくるたびに目が覚めてしまい寝られなかった」と言う羽生。そこで決意をしたのは、公式練習でもやっていた4回転トーループ+1回転ループ+3回転サルコウを入れて4回転5本の構成にするということだった。
 そんな思いを持って臨んだフリー。最初の4回転ループは丁寧に跳んでGOE(出来ばえ点)2.57点をもらう滑り出し。だが、次の4回転サルコウはパンクして1回転。次のコンビネーションスピンから立て直したが、ステップはいつもよりややキレのない滑りで、少し体が重いように見えた。

 その時、羽生はすでに、後半最後の3回転ルッツを、トリプルアクセルに変更すると決めていた。
「パンク直後のスピンをやっている最中に、4回転を6本にしようかな、とも思いましたが、それだとプログラムがバラバラになってしまうのでとりあえずアクセルを頑張ろうと思いました」と笑う。
「とにかく世界選手権なみのクオリティーのフリーをやろうと思っていましたけど、挑戦するという意味で自分に課していた課題は、後半の4回転サルコウを絶対に跳ぶことと、4回転トーループを2本決めることでした。だから、前半のジャンプはきれいに跳ぼうという意識はありましたし、スピンでビールマンをしていません。ステップも感情を込めていましたが、コントロールはしていました。ある意味、こういう表現のこういうステップもありなのかな、と自分では思っています」
 SP5位の悔しさをぶつけた世界選手権フリーでは、集中力が高まり「偶然入れた」という心境。今度はそれを意識的にコントロールして再現してみようと考えたのだ。

 羽生は、後半の4回転サルコウ+3回転トーループをGOE2.43点の出来で決めると、次の4回転トーループもきれいに跳び、2.71点の加点。そして、トリプルアクセルからの連続ジャンプのあと、4回転トーループも決めて、最後の3回転サルコウの着氷は止まってしまうような形になったが、3連続ジャンプは減点を0.23点に抑える出来にした。
 結局、前半の4回転サルコウと最後のトリプルアクセルのパンクというミスはありながら、200.49点。フリー1位になって12点を獲得し、チームの首位浮上へ貢献した。
「後半に4回転を3本入れることができたのは、史上初ということは関係なく、自分にとってうれしいことだなと思います。間違いなくいえるのは、前半で跳んだかのような4回転サルコウ+3回転トーループと、4回転トーループを連続で決めることができたので、やっと自分のジャンプらしいジャンプを後半でも入れられるようになったということ」
 こう話す羽生だが、このまま来季へ向けてフリーで4回転5本の構成にするかといえば、そこは「まだ考えなければいけない」とも言う。それは世界選手権のSPでジェイソン・ブラウン(アメリカ)が4回転を入れないプログラムで93.10点を出したのを見て、「フィギュアスケートの面白さを教えられました。その点では自分の武器は何なのかをしっかり考え直していかなければいけないと思う」という考えがあるからだろう。
「世界選手権を終えてから、練習ではフリーに4回転を5本入れる練習をしましたが、実際に世界選手権の時のようなクオリティーで5本というのはさすがに難しかったです。ただ、時間もそんなにない中で、しかも体力がだいぶ落ちている状態で後半の4回転をきれいに2本決められて、もう1本も何とか3連続ジャンプにつなげられたという意味では、1点でも2点でも多くという思いで自分の気持ちが乗っている時には、武器になると思いました」
 今シーズン最後のフリー演技は、羽生にとって来季プログラム構成の選択肢が広がる演技になったようだ。
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/othersports/figure/2017/04/22/post_14/index.php