2017.09.30 - sportiva - 羽生結弦の今季フリー『SEIMEI』は 2年前と、どう変わったのか (折山淑美)

羽生結弦の今季フリー『SEIMEI』は
2年前と、どう変わったのか
sportiva 2017.09.30
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/othersports/figure/2017/09/30/seimei_split/

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 羽生結弦が2015年のグランプリファイナルで記録した、当時のフリープログラム世界最高得点は、219.48点だった。このときは、4回転ジャンプは前半にサルコウとトーループ、後半にはトーループの連続ジャンプが入っていた。

 8月のトロントでの公開練習では、前半に4回転ループ、4回転サルコウ、3回転フリップ。後半は4回転サルコウ+3回転トーループ、4回転トーループ+1回転ループ+3回転サルコウ、4回転トーループ、そしてトリプルアクセルの連続ジャンプ、最後は3回転ルッツという構成だった。また、練習では「ミスをしたときのリカバリーも考えて、最後のジャンプをトリプルアクセルにすることもある」と羽生は話していた。
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フリーでも世界最高得点更新に注目が集まる羽生結弦

 だが、その構成はシーズンイン直前に変更し、4回転は5本ではなく、前半にループを1本入れ、後半にサルコウ1本とトーループ2本の計4本となった。それでもジャンプの基礎点は87.76点。2シーズン前の『SEIMEI』のジャンプの基礎点79.81点と比較すると大幅に伸びている。その差が2年間の羽生の進化の一面を示しているといえるだろう。

 今シーズン初戦となったオータムクラシックでは、羽生は右膝の不安からSPと同様にフリーでも4回転ループを封印。前半はルッツ、ループ、フリップの3回転ジャンプを入れる構成で臨んだ。基礎点が1.1倍になる後半は、昨シーズンの国別対抗戦で「ショートで失敗して7位になったのがすごく悔しくて、それでもう1本4回転を入れちゃえと思って」(羽生)実行したフリーの後半と同じ、4回転3本とトリプルアクセル2本という構成。4回転サルコウ+3回転トーループを跳んだあと、4回転トーループを3連続ジャンプと単発で続け、トリプルアクセルを連続ジャンプと単発にして締めるという演技だ。

 昨季、演技後半の4回転サルコウで苦しんでいた羽生だったが、世界選手権と国別対抗できれいに決めたことで自信をつけているようだ。さらに、4回転トーループとトリプルアクセルを2本ずつ入れることで、より難度が高くなるとともに、GOE加点を狙う意図もあるのだろう。もし前半に多少のミスが出ても、後半のジャンプを決めれば、十分リカバリーでき、得点を稼ぐこともできる。

 しかし、オータムクラシックでは後半への意識を強くしていたものの、スピードを上げて入った最初の3回転ルッツがパンクしてリズムに乗れず、後半に成功したジャンプは4回転サルコウ+3回転トーループのみ。気持ちが空回りする結果になってしまった。

 それでも、この構成が『SEIMEI』というプログラムをさらに進化させるために考えられているのは確かだ。

 ジャンプの後半の基礎点を見ると、昨季は59.73点だったのに対し、今季は64.46点。一方、前半のジャンプの基礎点は、4回転2本の昨季は27.80点だが、4回転ループの他は3回転ルッツと3回転フリップにしている今季は23.30点。この配分には今季のフリーは後半に懸けていることが表れているが、同時に、もちろんこの構成でライバルたちと十分勝負できるともいえる。

 ただし、ルッツは「4回転を跳ぼうと思えば跳べる」(羽生)という状態にあるため、4回転を5本にする可能性も残されている。4回転ルッツを加えれば、基礎点はさらに上乗せでき、昨季の世界選手権で6本の4回転を跳んだネイサン・チェン(アメリカ)の基礎点96.86点に1.5差まで迫る95.36点となる計算だ。

 完成度の高い演技で勝利を目指すという方針をベースに、コンディションや相手関係を見ながら、さらに進化する可能性も秘めている。それが今季の羽生のフリープログラムなのだ。