2011.12.12 - sportsnavi - 高橋大輔と羽生結弦が巻き起こしたスタンディングオベーション (青嶋ひろの)

 - 羽生部分节录

公式練習から始まった“ジャンプ合戦”

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ファイナル初出場の羽生結弦。SPでは4回転のミスがあったが4位につけた【坂本清】
2011年のグランプリ・ファイナル。男子シングルは前日の公式練習から、普段の試合とは少し違う空気が流れていたかもしれない。
 ミハル・ブレジナ(チェコ)、ハビエル・フェルナンデス(スペイン)、そして羽生結弦(東北高)と、初出場の3人が名うての4回転ジャンパー。彼らを中心としたジャンプ合戦でまず火花が散り、プログラムも振りやジャンプを抜かずにフルで滑リ通してしまう選手が続く。まるで試合前の6分練習が延々続くように、前日練習にしてはかなりヒートアップ。そしてまだシーズン前半の折り返し地点であるファイナルらしくもない、異様な熱気が渦を巻いていた。若手3人の「ここで名前を上げたい!」という闘争心に引きずられるように、全選手が練習から全力で戦っていたこの日――この時点での、日本選手ふたりのコメントが面白い。

「ここにいられるだけで光栄な試合、ファイナル。今日の僕は、この雰囲気に飲まれるような練習をしてしまいました。とにかく自分のことで精一杯だった。もっと自分から空気を醸し出せるように、練習しなければいけないのに……」(羽生)
「今回はみんな、空気が良いですね。勝負してるな、って雰囲気の中で練習できている。これは明日から、刺激のある楽しい試合ができそうです」(高橋大輔・関大大学院)
 こんな練習を見ていたからか、ショートプログラム(SP)で出場選手6人全員にミスが出たときには、「やはり……」という雰囲気が漂った。ファイナルに慣れているはずのパトリック・チャン(カナダ)やジェレミー・アボット(米国)を含め、選手全員気合が入り過ぎだったことに、各コーチやジャッジも苦笑気味。

日本勢がSPでの挑戦で得た収穫
 一方の羽生は、高橋とは逆に4回転を入れることで先輩格の選手に対抗しようという立ち位置の選手だ。練習での高確率もあり、ぜひとも成功させたいところだったが、残念ながらステップアウト。しかし4回転のミスがありながら、スピンやその他のジャンプの評価が高く、エレメンツスコアは全選手中2位。ロシア杯に続き、4回転を入れなければ上位に太刀打ちできない選手ではないところを見せてくれた。

高橋の好演技に続いた羽生

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羽生は渾身の演技でフリーの自己ベストを更新【坂本清】

 続いて、高橋への大歓声が鳴り止まぬなか、緊張の面持ちで登場したのが羽生。7日に誕生日を迎えたばかりの17歳は、どうやらこの大会期間中だけでもまたさらに成長したよう。前日の公式練習では「雰囲気に飲まれていた」はずなのに、この日にはもう「自分でもびっくりするくらい緊張していなかった。もうちょっと緊張した方がいいと思ったくらいです(笑)」などと余裕を見せてしまう。
 そんな彼がプログラム冒頭に決めたのは、ロシア杯のSP、フリー、ファイナルのSPと、3回連続で決められずにいた4回転トゥループ! さらにこの日の演技は、彼の若さのすべて、勝ちたい気持ちのすべてを爆発させる迫力を持ちつつ、見るものを吸い寄せるようなあたたかさがあった。ジャンプも次々と成功させ、もしやこのままノーミスか、と思われた矢先……最後の最後のトリプルサルコウで、大きく着氷を崩すミス。会場は悲鳴に包まれ、本人も終わった直後は放心状態。しかしそんな彼をすぐに包みこんだのは、あまりにもフレッシュな、そしてあともう一歩のところで……という、デビュー戦らしい演技に対する、大きな喝さいとスタンディングオベーションだった。観客たちはこの17歳の新人に大きな好感と興味を持ち、素晴らしいファイナルデビューを祝福してくれたように見えた。

 羽生結弦、十分戦った――そんな気持ちで報道陣が、満足のコメントを期待して集まったのに対し、答えた羽生の言葉がまた興味深い。「着氷はしましたが、4回転はきれいに流れ切らなかったし、今日の感触は好きじゃない。自分としては70〜80点くらいの4回転です。他のジャンプも最後の方はきれいに降りている感覚がなかったし、流れのないジャンプで生まれた疲れを、集中でカバーしきることもできなかった……」
 最後のサルコウはともかく、4回転を含めすべてに加点の付いた高評価ジャンプにも不満。一方、「でもこれで、ちょっとだけでも海外で評価されることは見せられたかな。そのことを過信せず、この経験をしっかり生かして、全日本、世界選手権に向けていきたいと思います」とも。こちらがその試合について尋ねるより前に、自ら「世界選手権」をシーズン後半のスケジュールに想定した発言をしたのだ。演技だけでなく、勝気で強気で、自分に厳しく、確固とした意思を持ったコメントも見事だった。

今大会でも強さを見せた世界王者、パトリック・チャン
日本男子初のファイナル優勝が期待された今大会。世界王者のパトリック・チャンが優勝し、結果的には2位と4位に“終わった”二人だが、ともに胸に迫る素晴らしいフリーで会場を沸かせてくれた。開催国のスター選手であるチャンと相対しながらも、間違いなく観客の心をつかんでいった様子は、同じ日本人としてとても誇らしかった。演技とともに、それぞれの目的をしっかり果たした戦い方もまた、見事だった。

 そして高橋大輔、羽生結弦。彼らを含め、日本男子シングル勢の今後の戦いの焦点は、いかにしてチャンを倒すかになるだろう。
「今の僕では、最後に転んだトリプルサルコウの代わりに4回転サルコウでも成功させなきゃ、チャンには勝てませんよ(笑)」とは、羽生のコメント。
「今回、自分はジャンプミスひとつ。彼はミス3つ、その他にも軽いつまづきがありましたね。それでもこの評価を受ける。ここで勝つには、僕もまだまだジャンプやスケーティングのクオリティを上げていかなければいけないな!」とは高橋のコメント。
 エレメンツでの加点とプログラムコンポーネンツスコアとで、並みではない点数をたたきだす現世界王者、パトリック・チャン。それほど、日本の二人とチャンの間に大きな差はあったのだろうか? そう感じた人も多かっただろう。そんな声は報道陣からも少なくなかったし、カナダの観客たちでさえ、盛んに「ダイスケとパトリック」の評価について議論を戦わせていた。

 ここまでの評価を得るチャンの強さは、どこにあるのか――。試合後、今回の“敗者”たちに聞いた答えはこうだ。
「チャン選手とは、並んで滑りたくない、それが本音です。それほど、彼は『滑る』んです。たとえば、僕が60メートルのリンクを4歩で進むとしたら、彼は同じ距離を2歩で進める。またこれほど滑るからこそ、ジャンプも迫力のあるものを見せられる。彼の能力は、絶対に僕たちが見習わなければならないものですね」(羽生)
「彼のすごいところは、練習ならば僕もできているかもしれない深いスケーティングを、プログラムの中でも見せられることです。さらに普通の選手と大きく違うところは、その滑りがプログラム後半になるにつれて、どんどん伸びるところ。後半になっても疲れがまったく見えず、むしろ後半の方がスピードが上がっていく。まさに理想的なスケーティングだと思います」(高橋)

 チャンの強さ、とりわけスケーティングの「巧さ」に関しては、彼らだけではなく、トップ選手の誰もが口をそろえて認めるところであり、選手やコーチ、ジャッジなど、スケートのプロであればあるほど評価は高い。同じカテゴリーで戦う男子選手たちにとっては、高い得点を出すにふさわしい選手。そして倒しがいがある同時代の強敵、ととらえているようだ。
 ならばそのチャンを倒すのは、誰か? 昨シーズンの世界選手権で彼に続いた銀メダリスト、小塚崇彦の名を挙げる人もいる。昨季とは打って変わって戦う気持ちの溢れた前世界王者・高橋も、もちろん候補者だ。ファイナルで堂々と存在をアピールした羽生だって、名乗りを上げたいところだろう。他にももちろん、パトリックを狙って世界の舞台で戦えそうな日本選手は、数多く控えている。

 

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