2014.02.06 - Number web - 羽生、プルシェンコ、チャンが火花。 ライバル意識と敬意が混じる緊張感。 (野口美恵)

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練習で好調にジャンプを決めた羽生結弦。同じ時間帯に練習を行なっていたプルシェンコも、羽生の動きに視線を送っていた。(能登直)

 日本王者の羽生結弦と“フィギュアの皇帝”エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)、そして世界王者のパトリック・チャン(カナダ)が、お互い一歩も譲らない気迫合戦を展開している。
 5日昼、ソチ五輪のメイン会場で同じグループでの練習となった羽生とプルシェンコは、4回転をそれぞれ成功させ好調ぶりを確認。羽生は「プルシェンコがいるから僕のプログラムが変わるとかではない。普通どおり自分の感覚だけを信じて練習しました」といい、ライバルに気を取られないよう自分に言い聞かせていた。
 羽生は、ソチ到着前から気合いが違った。トロントからの機内で、4回転ジャンプのイメージトレーニングを繰り返した。
「目をつぶると(4回転)サルコウとトウループのことしか頭にありませんでした。そのまま寝たので、ジャンプを跳ぶ同じシーンが永遠に繰り返されて、全部跳べていました。機内で身体を休ませながら、やるべきことをやったという感覚です」

練習では得意の4回転トウループに、4回転サルコウも。
 10時間以上のフライトの間、“永遠に”繰り返したという4回転のイメージトレーニング。その成果は翌4日の練習に現れた。
 昼の初練習では「なまった身体をまずは動かすのが目的」といいながらもトリプルアクセルを成功。午後の練習では、得意の4回転トウループだけでなく、今季まだ1度しか成功のない4回転サルコウもたやすく決めた。
「トロントではブライアン(オーサーコーチ)と話し合って計画を立てて練習してきた。特別な練習ではなく、やれることをやる、というのが今の考え方」
 と浮かれる様子はない。
 シーズン前半には、ライバルのパトリック・チャン(カナダ)を意識しすぎてペースを崩した試合が続いた。しかし完全に自分に集中できたグランプリファイナルでチャンを破って優勝。今季12月には「ライバルを意識しすぎてはダメ。試合になったら自分だけに集中する、その自分のやり方を掴めた」と語っている。

「プルシェンコの存在自体も楽しめるようやりたい」
 その決意は5日、小学生の頃からの憧れエフゲニー・プルシェンコとの初合同練習でも変わらなかった。
「プルシェンコが出場できるなんて、びっくり。でも彼がいることで僕のプログラムが変わるとかではない。僕は僕。プルシェンコの存在自体も楽しめるようやりたい」。そう自らに言い聞かせると、練習を迎えた。
 初のメインリンクと言うこともあり、氷の感覚を確かめるように基礎スケーティングを入念に行う。プルシェンコがすぐにジャンプ練習を始めたが、それに気を取られることなく、淡々と自分の基礎メニューを繰り返した。練習後半になると、4回転トウループをほぼ100%の成功率で成功させ、手応えは十分。翌日からの団体戦・男子ショートに向けて、
「自分自身、感覚が良いですし自信もって、一番若い日本代表として元気のいい滑りをみせたい」と力強く語った。

ライバルたちも着々と。共通するのは「緊張感」。
 一方、プルシェンコも羽生と同じく3日夜にソチ入りしたが、翌4日は「そんなに練習して疲れる必要はない。今日は休養日だ」といって選手村で一日を過ごした。5日のメインリンクが初練習だったが、いきなりジャンプ練習を始めると、練習開始後5分でトリプルアクセルを成功。10分後には4回転トウループ+3回転トウループの連続ジャンプを成功させ、貫禄を見せていた。
 約20分で練習を切り上げると「すべてが順調だ」とひとことだけ残して去っていったプルシェンコ。背中や膝の度重なるケガ、そして31歳という肉体的限界もあるが、すべてのハンデを跳ね返す精神力を感じさせた。
 もう一人の優勝候補、パトリック・チャンは、2月1日から早々に練習を開始。4回転+3回転も好調で、一糸乱れぬ様子で練習をこなしている。
「4年前のバンクーバーの時の僕とは別人になってここに来た。すべてが成長しているし、準備は万端だ」と自信を見せる。
 しかし記者会見では、「ユズルには素晴らしい才能がある。僕が自分に集中して最高の演技を出来るかどうかが重要だ」と話し、強いライバル意識を吐露。またロシアメディアの熱狂的なプルシェンコ報道ぶりを見て「僕があの立場だったら平常心ではいられない。彼の経験と精神力は素晴らしいものだ」と素直に感心していた。
 三者三様の公開練習。共通するのは、4回転が絶好調でありながらリラックスした笑顔は一切なく、これまでのどの大会にも増す緊張感。五輪ならではの空気感に耐えた者が勝者となるのだろう。

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