2014.02.07 - sportiva - Team SP - ソチで好発進。羽生結弦が憧れのプルシェンコに勝利した意義 (折山淑美)

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi photo by Noto Sunao/JMPA

2月6日、ソチ五輪から実施される新種目、フィギュアスケート団体戦が行なわれ、男子ショートプログラムで、羽生結弦が見事な演技を披露して1位となった。
 10名中最後の演技者となった羽生は、昨シーズンから演じている『パリの散歩道』を、完璧な内容でまとめ、このプログラムを完全に手中にしたといえるほどの出来。

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フィギュアスケート団体戦の男子ショートプログラムで完璧な演技を見せた羽生結弦

9番滑走のパトリック・チャン(カナダ)が演技を終えた時点で、トップは地元ロシアのエフゲニー・プルシェンコ。ソルトレイク五輪の銀メダリスト、トリノ五輪の金メダリスト、バンクーバー五輪の銀メダリストであるプルシェンコは、4回転トーループ+3回転トーループの連続ジャンプを成功させるなど、91・39点の高得点を獲得し、会場にはロシアコールが沸き上がっていた。だが、羽生はその歓声を自らへの拍手に変えてみせたのだ。
「すごく緊張しました。今回は僕だけのスケートではないし、日本チームのためにという部分があったから。五輪に出ることを想像していましたけど、夢の舞台で脚も震えずに最後まで全力で滑り切れたというのは、本当に自分を褒めてもいいのではないかと思います」
 チームのために10点(1位は10点。以下2位に9点、3位に8点と10位まで1点ずつ獲得ポイントが下がる)を取れてホッとしたという羽生だが、その演技には不安のかけらも感じられなかった。
 最初の4回転トーループを完璧に決めると、後半に入ってのトリプルアクセル(3A)も、9人の審判のうち5人がGOE(技の出来ばえ)の最高点3点をつける文句なしのジャンプ。その後の3回転ルッツは回転軸が斜めになってしまい、ステップシークエンスはレベル3だったものの、得点はトップに立つ97・98点。羽生は「日本以外で95点以上を出せたのは本当に嬉しかった」と笑みを見せる。
世界選手権3連覇中で、羽生の最大のライバルであるチャンは、演技直前の6分間練習から不安定だったジャンプでミス。最初の4回転トーループでは着氷で重心が後ろに行き過ぎて次の連続ジャンプが2回転になり、3Aは完全に回りきりながらも着氷でミスをしてステップアウト。結局、チャンの得点は89・71点で3位と、精彩を欠いた。
ベテランのプルシェンコが底力を見せるなか、最後は羽生が存在感を示し、13日からの男子シングルへ向けて好発進をしたといえる。
「淡々と自分のプログラムを楽しめたなと思います。今のコンディションでできることを最大限出せたし、最後まで全力で滑りきれたので、非常にいい感覚で個人戦へいけるんじゃないかなと思います」
 こう話す羽生は、個人戦までまだ1週間あり(現地時間でショートプログラム13日、フリー14日)、ライバルがどう調子を上げてくるかわからないこともあって、「相手との差というのはわからない」とも言う。だが、「自分の今の状態がどうなのかわかったことは大きい」と、この日の自らの出来を評価する。
 また羽生にとって、小さい頃からの憧れであるプルシェンコと同じ五輪の舞台に立ち、得点で彼を上回れたことはとても意味のあることだった。
「プルシェンコ選手が自分より前に出ていたので、演技を見られなかったことはすごく残念でしたけど、彼の得点を見る限り『素晴らしい演技をしたんだろうな』と思っています。実際、彼は僕にとって脚が震えるような憧れの存在です。とにかくこの舞台で一緒に滑れたことが、本当に嬉しいですね」
個人戦の前に、憧れのプルシェンコと一度手合わせができたことは、羽生にとっていい経験となったはずだ。次の個人シングルでは、憧れの存在ではなく、一緒に競い合う選手としてプルシェンコと戦えるだろう。
 羽生がソチでの戦いに万全の状態で臨むことができているのも、尊敬するライバルがいるからこそ。今季のグランプリ(GP)シリーズで、羽生は3戦(フランス大会、カナダ大会、GPファイナル)とも世界王者のチャンと戦い、彼から多くのことを学んで吸収してきた。さらに、ソチの大舞台では個人戦の前にプルシェンコと手合わせすることもでき、今季は、羽生がさらに進化するための大きな刺激が連続するシーズンとなっている。
 また、この日の団体戦で、羽生の完璧な演技に続き、ペアの高橋成美と木原龍一は、シーズンベスト更新こそならなかったが、大きなミスなく今できることを最大限発揮して46・56点を獲得。上出来ともいえる8位で3点を獲得し、日本は順位点で4位(1位ロシア、2位カナダ、3位中国)となり、フリーに進める5位以内の可能性を大きくした。
 フィギュアスケート団体戦は、8日にアイスダンス、女子シングルのショートプログラム、ペアのフリー、9日に男子シングルと女子シングル、アイスダンスのフリーが行なわれる。

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