2015.04.20 - web sportiva - 羽生結弦、苦難の今シーズン総括。「自分のせいだと思っています」(折山淑美)

折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao

 世界フィギュアスケート国別対抗戦、羽生結弦はショートプログラム(SP)に続き、フリーでも192・31点でトップとなり、日本の3位表彰台に大きく貢献した(優勝はアメリカ。2位にロシア)。

※ 世界ランキング上位6カ国による団体戦。日本からは、羽生結弦、無良崇人、宮原知子、村上佳菜子、古賀亜美&フランシス ブードロ・オデ(ペア)、キャシー・リード&クリス・リード(アイスダンス)が出場。そのほかの出場国は、ロシア、アメリカ、カナダ、フランス、中国。今 回は東京で開催。

http://i.imgur.com/wXftZW0.jpg

SPに続き、フリーでも1位の得点を叩き出した羽生

  大会最終日19日のエキシビションの前には、「今シーズンは完璧な演技がひとつもなかったのが悔しい」と話していた羽生。完璧な演技を実現できる今シーズ ン最後の場だったフリーで、羽生は冒頭の4回転サルコウを練習と同じようにきれいに決めたが、次の4回転トーループが3回転になってしまった。

「世界選手権の後もしっかり練習をしていましたけど、曲をかけた通しの練習では両方が揃わないことがけっこうありました。4回転サルコウを降りたあと、疲労感 があるというか……。4回転トーループを続けて2本だったら、同じことをやればいいと思っていますけど、サルコウとトーループはまったく違うものなので、 そこの(感覚の)ズレがけっこうあります。そういう難しさをあらためて感じました」

 羽生は、トーループが3回転になった後、ややスピードを抑えたように見えた。予定していたジャンプを失敗すると、「パンクになって回転数が減ったジャンプは、変な力の入り方になってしまうため、成功した時より疲れる」(羽生)という影響もあったのだろう。

 そのため、ミスをした直後、すぐに自分の演技を確実にやり遂げようと意識を切り替え、その結果、フリーでトップの得点を記録した。それでも羽生は、演技終了後はSPの後と同じように「悔しい」という言葉を口にした。

 

「4回転トーループが3回転になってしまったため、そのあとの連続ジャンプのセカンドを(3回転トーループから)2回転にしなければいけなくなっ て、GOE(出来ばえ点)も含めて8、9点は失ったと思います。(4回転トーループを成功して、その後のセカンドジャンプを3回転にできていたら)200 点を超えていただろうなと思う」と苦笑する。

 同時に、4回転サルコウを試合で決められたことが、大きな収穫だったと語る。

「もしサルコウを失敗してトーループを降りていたのであれば、たぶん嬉しさ半分、悔しさ半分ではなく、悔しさの方が多かったでしょうね。でも、サルコウを決めることができたので、達成感はあります」

 それでも、技術面での不満は残っているはずだ。今シーズンを戦うにあたり、SPとフリーの両方で後半に4回転ジャンプを入れる難度の高いプログラムを組み、シーズン前の練習で手ごたえをつかんだものの、試合では実践できなかったからだ。

  ソチ五輪シーズンが終わった直後、「五輪の優勝も世界選手権の優勝も、すでに過去のこと。次に待っているのはこれまでとは違う、新しい大会でしかない」と 話していたように、新たなものを取り入れて、進化していかなければいけないという覚悟が、羽生にはある。だからこそ、シーズン最後の今大会終了後、「来季は今季の理想としていた構成と同じように組んでいきたい」と、高難度のプログラムに挑むことを宣言した。

http://i.imgur.com/0BvsxG2.jpg

エキシビションで『パリの散歩道』を披露した羽生結弦

 五輪王者には飽くなき向上心がある。「まずは(今季)成長してないところからあげてみると……」と言って、こう続けた。

「(昨 年末の腹部の)手術などは仕方ないとはいえ、自己管理不足や自分の注意不足というのは明らかにあったと思います。中国杯のアクシデント(6分間練習で中国 のエン・カンと衝突して負傷)にしても、みなさんが思っている以上に自分のせいだと思っていますし。まずはベストの状態に持っていかなければいけないけ ど、万全ではなくてもベターな状態にして、毎回、最低でも今大会くらいの演技をしなければ、これからますます大変になると思うので、しっかり管理していか なければいけないと思います」

 今シーズンの数々の経験を、「振り返ってみれば貴重なもの」と話す羽生。苦難をくぐりぬけて競技を続けるなかで、さまざまなことをプラスにとらえる強さを彼は持っている。

「こういう(ポジティブで前向きな)性格だからこそ、あのようなアクシデントから這い上がってこられたのだと思いますし、常に勝利を勝ち取るんだという強い気持ちを持っていられたのだと思います」

 予想もしないアクシデントで目標が達成できないこともある。そのことを知った今シーズン、そこで感じた大きな悔しさを糧に、羽生は新たな自分との戦いに踏み出す。

「(今季は)練習方法など、綿密に計画を立てて、何が必要で、何をすべきなのかひとつひとつ考えるきっかけになった。ケガをしてからどう調子を上げていくのか、どう身体を整えていくのか、ということも含めて、貴重な経験をさせていただいたなと思っています」

 そう力強く語った羽生は、エキシビションで昨シーズンのSP『パリの散歩道』をノーミスで演じきり、フィナーレでも見事なジャンプを決めてみせた。来シーズンがどんなプログラムになるのか、心から期待したい。

sportiva.shueisha.co.jp