2015.06.01 - web sportiva - 羽生結弦はなぜ、アイスショーで4回転ループに3回も挑戦したのか (折山淑美)

折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao

4月の世界フィギュアスケート国別対抗戦(東京)に出場したあと、本拠地のトロントに戻っていた羽生結弦。5月下旬に帰国し、5月29日の『ファンタジー・オン・アイス幕張』 で久しぶりにファンの前に姿を見せた。

羽生は、オープニングでトリプルアクセルを跳んで客席を沸かせると、第1部では2010-2011シーズンのエキシビションナンバーだった『ヴァーティゴ』を披露。3回転ループなどのジャンプを含め、スピンやステップを組み込んだ演技で、彼が決めポーズをするたびに客席からは大きな歓声があがった。

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アイスショーで4回転ループにも挑戦した羽生結弦 


今回のアイスショーでは、宇野昌磨が新しいショートプログラム(SP)の『レジェンド』で2015-2016シーズンの演技構成の一端を見せたほか、ソチ五輪ペア金メダルのタチアナ・ボロソジャル/マキシム・トランコフ(ロシア)や、エフゲニー・プルシェンコ((ソルトレイク五輪、トリノ五輪で金メダル、バンクーバー五輪銀メダル、ソチ五輪団体金メダル/ロシア))らトップスケーターが多数登場。そして、大トリで再登場した羽生は、スペシャルゲストアーティストのシェネルとのコラボで、映画『海猿』の主題歌でもある『ビリーブ』を、大きさとスピードのある滑りでダイナミックに演じた。

 羽生はフィナーレで4回転トーループをきれいに決め、最後のジャンプ合戦ではハビエル・フェルナンデス(スペイン)とともに滑り出すと、4回転サルコウを決めたフェルナンデスに続き、国別対抗のエキシビションのフィナーレで成功した4回転ループに挑戦。

そこで転倒してしまった羽生は、もう一度4回転ループに挑戦したが、今度は2回転になってしまって苦笑い。それでも、羽生は負けん気を見せて、他の 選手がリンクから去ったあとに3回目の挑戦をしたが、それも転倒してしまった。最後に羽生は、客席に向かって両手を合わせて謝るしぐさをしながらリンクを 去り、この日のアイスショーは幕を閉じた。

 羽生は4月の世界国別対抗戦の後、2014-2015シーズン、ついに完成させることができな かった「演技後半に4回転を入れるプログラム」に「来季も挑戦する」と明言していた。これまで羽生は、4回転トーループやサルコウだけではなく、ループや ルッツなどの4回転も練習で挑戦している。その理由を「4回転サルコウが、(自分が競技会で)今できる一番難しいジャンプ。その確率を上げるためにも、 もっと難しい(ループやルッツなどほかの)4回転に挑戦することで、精神的な限界値を上げられると思うから」と話していた。

 そして、エキシビションやアイスショーのフィナーレであっても、その考えは同じだ。今回のアイスショーでの4回転ループ挑戦は、羽生の新しいシーズンへ向けての意欲の高さを示すものといえる。

 それは、羽生自身、2015-2016シーズンの戦いがより厳しくなることを予想しているからだろう。まず、羽生が大きな目標として追いかけ続けていたパトリック・チャン(カナダ)が、1年間の休養から復帰する。彼はきっと、新たな武器を身につけて戻ってくるはずだ。

  また、新たなライバルとして、同じブライアン・オーサーコーチの指導を受けるチームメイトであり、新世界王者のハビエル・フェルナンデス(スペイン)も力 を伸ばしてきている。さらに、3月の世界選手権のフリーでフェルナンデスと羽生を抑えて1位になったデニス・テン(カザフスタン/世界選手権3位)も、か つてより安定感を高めてきている。

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羽生は、7月中旬まで国内のアイスショーに出演する予定 


ほかにも、世界ジュニア王者の宇野を筆頭に若手が成長してきている。宇野が今回のアイスショーで見せたSPは、キッチリ仕上げてくればこれまでにはなかった力強さを表現できるプログラムになっており、グランプリシリーズで上位を狙える可能性は十分ある。2015-2016シーズンは、2018年の平昌五輪へ向けて各選手が“打倒・羽生”を目標に、熾烈な戦いを繰り広げていくだろう。

 羽生は今後、新シーズンの準備を続けながら7月中旬まで日本でのアイスショーに出演する予定。彼の情感豊かな演技だけでなく、4回転ジャンプの完成度を上げていく過程も、見どころのひとつになりそうだ。

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