2016.10.02 - ACI SP - web sportiva - 羽生結弦が世界初の4回転ループを成功させても喜んでいないわけ

YUZURINK中译

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi能登直●撮影 photo by Noto Sunao

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オータムクラシックで4回転ループを成功させた羽生結弦
羽生結弦の今季開幕戦となったスケートカナダ・オータムクラシック。9月30日のショートプログラム(SP)を終えると、「緊張していた?」という問いかけに、羽生は「ちょっと緊張していました」と苦笑しながら答えた。
 会場は羽生が登場すると、客席にいる若い女子スケーターたちが大きな歓声を上げ、手拍子で迎えた。
 6分間練習では、いつものように3回転ループを跳んだあと、トリプルアクセルの入りを確認しようと大きく長さのあるジャンプを1回転半にして着氷すると、エッジを氷に取られて転倒する珍しいシーンも。どよめきが起きるなか、羽生はすぐにトリプルアクセルをしっかり決めると、4回転サルコウ+3回転トーループもきれいに決めてまたまた大歓声を浴びる。
 だが、今季からプログラムに組み込んでいる4回転ループはパンクして2回転に。それでも、4回転ループを再度跳ぶと、今度は美しく決め、軸が動いて転倒を繰り返していた昼の公式練習の動きをキッチリ修正できていた。
 ジャンプの練習を終えると、あとは体を慣らすように大きなスケーティングをするだけで公式練習を終え、リンクを下りる直前には体を締める動作をして氷上をクルっと回るだけでループの動きを再確認した。
 ジャンプは1回ずつ成功させただけで、体力の消耗を極力避けようといているような6分間練習を見て、彼の緊張を感じた。

競技が始まると、3人目にリンクに上がって滑り出した羽生は、スピードに乗ったイーグルの後に4回転ループを跳ぶ。着氷で少し体を沈めるような形になったが、こらえて見事に成功させ、”世界初”の認定を受けた。
 だが、歓声と手拍子が始まるなかで挑んだ次の4回転サルコウからの連続ジャンプは、最初のサルコウがパンクして1回転に。そして少し間を置いて強引につけた3回転トーループでは転倒してしまい、続くフライングキャメルスピンもスピードのない回転になってしまった。
 それでも、その後のトリプルアクセルはスピードを取り戻し、完璧に決めて持ち直す。歓声と手拍子で音楽が聞こえなくなるほど盛り上がる会場で、シットスピンとステップシークエンス、最後のコンビネーションスピンをしっかりまとめて演技を終えた。
 ステップはレベル4にはなったものの、約2週間前のトロントでの公開練習や今大会の公式練習で見せていた鋭さがなく、本人も「ぜんぜん(体が)動かなかったんです」と苦笑するような出来だった。
 結局、演技構成点は各項目8点台後半から9点台前半をもらって45・35点を獲得したが、技術点では4回転ループはGOE(出来ばえ点)加点も0・8点にとどまる。連続ジャンプは1回転になったサルコウが0点で3回転トーループのみ認定され、そこから減点されて43・95点。SP1位発進にはなったが、得点は88・30点と伸びなかった。

「ループを決めた後のサルコウは丁寧にやろうとしたんですけど、踏み切る時に体勢が崩れてしまいました……。もっと丁寧にできたなと思っているので、まだまだですね。今日、非常に注意していたのは、このプログラムで試合といえども笑いながらやりたいと思っていたことです。それに加えてクールさだったり、この曲が表現しているものを伝えること。衣装も、なかなか着ないような白いパンツを履いているので、その衣装や曲(『Let’s go crazy』/プリンス)が出している雰囲気というものを、昨シーズンと同様に音をまといながらやりたいと思っていました」
 大きく報道された4回転ループの世界初の成功という点は、羽生にとって大きな関心事ではないようだ。
「もちろん世界初ということでニュースになるだろうけど、僕にとって世界初かどうかは関係ないですし、今朝までジュニアの選手がすでに跳んでいたので、世界初ではないと思っていました。別に何も変わらないと思っていますし、(今日は)サルコウを跳べなかったですから……。
 それに、4回転ループは練習ではもっときれいに跳べているので、『ループが決まった!』という実感がないんです。だからこそ、うれしいという思いも出てこないのだと思います」

羽生にとって心の底から4回転ループが「決まった!」「成功した!」と思えるのは、GOE加点で審判全員からプラス3点をもらえるようなジャンプをしたときなのだろう。
「力を出し切れずにSPが終わってしまった感じですね」と問いかけると、「そうですね。もう一回(SPを)できますよ、今からでも」といって笑みを返してきた羽生。今シーズン初の滑りは、”やや消化不良”で終わった。だがそれは、彼の目指すレベルが高いからこそ感じる、物足りなさでもある。今シーズンが進むにつれて、どこまで完成度が上がっていくのか注目したい。

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