2016.11.25 - web sportiva - 自然体の羽生結弦。NHK杯で「世界最高得点を出す準備はできています」

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao


11月24日午後のNHK杯公式練習。羽生結弦の4回転ループは不安定だった。
 練習最初のジャンプがループだったが、それがパンクして1回転になると、次もパンクで2回転に。3回目の挑戦で4回転を回ったが転倒してしまい、その後の挑戦もタイミングを取りきれていなかった。
 そこからは3回転ルッツと3回転フリップを跳び、トリプルアクセルを一度単発で跳んで成功。それからトリプルアクセルからの連続ジャンプと、3連続ジャンプも成功した。そして、4回転トーループ、4回転サルコウ+3回転トーループを跳んでリズムを作り、再度4回転ループに挑んで3回目にはきれいに決めた。
 フリーの曲かけでは、最初の4回転ループを決めると、次の4回転サルコウは力みがまったくない速い回転で、これ以上はないといえるほどの完璧なジャンプで着氷。さらにフライングキャメルスピンの後で少し間を置き、ステップから3回転フリップにつないだが、後半に入って4回転サルコウがパンクしてしまった。
 羽生はさすがに「アッ」という表情をしたが、そのまま演技を止めることなく4回転トーループに3回転トーループをつけて連続ジャンプにすると、トリプルアクセルからの連続ジャンプと3連続ジャンプまでつなげ、試合をしっかりと意識した練習を続けていた。

その後はブライアン・オーサーコーチとじっくりと話し合い、コリオシークエンスから3回転ルッツにつなぐ滑りをもう一度確認。最後はショートプログラム(SP)冒頭の4回転ループの入りの練習を始め、確認するように4回転ループを跳び、最後はパンクして3回転になったことで、苦笑いを浮かべてジャンプの練習を終了した。

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今年もNHK杯で世界最高得点更新がなるか注目の羽生結弦 
4回転ループに関しては、成功と失敗が半々という状態だ。それでも羽生の表情は昨年のような気迫を前面に押し出すものではなく、余裕さえ感じさせるものだった。「新しいものに挑戦しなくてはいけない」という昨年とは違い、「今やろうとしているものを、より完璧にやるだけ」という心境なのだろう。
 練習後の記者会見では、「昨年と同じような世界最高得点を出す準備ができているか?」という質問に、「できていると思います」ときっぱり言ってこう続けた。
「僕自身、去年と同じ演技をするわけではないですし、同じ曲でもなくて、会場も違います。スケートカナダ2位からこの大会までの流れは同じかもしれないですが、僕自身は今できる演技を、今の自分の最高の演技を目指してしっかりやっていきたいと思います」

SPに4回転ループが入っただけではなく、フリーでは4回転を昨シーズンの2種類3本から、3種類4本にしている構成。それをノーミスで演じきることができれば、昨年以上の得点は当然のように出る、と考えているだけなのだ。必要以上に気負うことはない。
「スケートカナダでは、練習でしっかり跳べていた4回転ループが、まだ本番で跳べるものではなかったので非常に悔しい思いをしました。自分の演技構成が今季は初めて4回転ループを入れたことで注目されているのは分かっていますが、たとえ4回転ループだろうが僕にとってジャンプはプログラムの一部でしかないと考えています。見ている人にも、ジャンプもまた『プログラムの一部』と見てもらえるような完成度にするために、練習をしてきました」
 9月のオータムクラシックと10月のスケートカナダを戦い、2戦とも完成にはほど遠い内容で終わった今シーズンの新プログラム。その2戦の自らの滑りを分析して課題に取り組み、いかに完成に近づけていくのか。今の羽生は、結果云々よりも、その一点だけに意識が集中していると言っていいだろう。
 羽生は、自然体でグランプリシリーズ2戦目のNHK杯に臨もうとしている。

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