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2014.02.14 - sportsnavi - 演技を左右する大切なパートナー フィギュアスケートの「靴とブレード」(長谷川仁美)

新調した靴が合わずに苦しむことも

http://i.imgur.com/YMFaFVD.jpg
華麗な演技に欠かせないスケート靴。大切なパートナーであるとともに、選手を苦しめることも……【写真は共同】
 今年1月の四大陸選手権に優勝した村上佳菜子(中京大)は、12月末に新調した靴が合わず、右足首が腫れていたという。また、今シーズンを飛躍の年と考えていたカナダの23歳ケビン・レイノルズは、シーズン前に新調した靴が合わず何足も試したものの、グランプリシリーズには間に合わなかった。
 フィギュアスケートのニュースを読んでいると、「今シーズンからブレードを新しくしました」という記事にたびたび出会う。フィギュアスケート選手たちにとってスケート靴は、大切なパートナーであるのに、選手を苦しめるものでもあるようだ。
 選手たちの履いているスケート靴は、驚くほど重くて硬く、靴とブレードを合わせると、片足で1キロ前後もある。スケート靴は、靴部分とブレード部分が別に売られていて、それぞれ好きなものを選んで留めて履いている。

靴部分のみで1足6〜7万円
 ではまず、靴の方を見てみよう。
 前述したように、靴は硬い。シングルやペアの靴とアイスダンスの靴でも作りが異なっており、アイスダンスの方は、より細かなフットワークができるよう、足首部分が曲がりやすくなっている。また、最近は軽量化された靴も増えているが、高橋大輔(関西大)のように、エッジワークを重視したために、ある程度の重さを求め、重い靴に変えている選手もいる。
 トップ選手たちは、欧米メーカーのものを履いているのだが、1足ずつ手作りのため、同じメーカーの同じタイプの靴を用意しても、靴ごとにほんの少しずつ違いがあり、その違いに悩まされるという。靴の内部を電子レンジのようなもので温めて、そこに足を入れ、インナーを足型にフィットさせるタイプの靴も出てきているが、それでも履いていくうちに靴の皮に癖が出てくる。1足もぴったりするものが見つからないのに、予備まで用意しておくことはほぼ不可能だ。その上、こうした靴は(靴のみで)6〜7万円程度と安くはない。
 せっかくフィットしたと思っても、毎日の練習で酷使された靴は、特に足首部分が軟らかくなってしまって(とはいっても、選手ではない人にとっては十分硬く感じられる)、数カ月〜半年で新しい靴に変えなくてはならないのもまたひと苦労だ。

羽生、浅田ら使用のブレード「レヴォリューション」
 スケート靴のもう1つのパーツが「ブレード」。こちらも、トップ選手たちは欧米メーカーのものを使っているが、メーカーによって、ブレードの底のカーブや、つま先についているギザギザの一番上のトゥ部分の位置や大きさが異なっていて、トゥループやルッツなどが跳びやすいブレードや、履きこなすのは難しいけれどスイートスポットに入ったときにらくらく滑れてしまうブレードなどがある。
「ブレード」と一言でいっても、メーカーや種類が違うだけで感覚が全然変わってしまい、トップ選手でも、簡単には元のように滑れないこともある。さらに、こちらも1セットで7〜9万円程度と決して安いものではない。選手たちにとって、ブレードを変えるのは勇気のいることだ。それでもブレードを変えるのには、理由がある。
 例えば、一昨シーズンから羽生結弦(ANA)が、今シーズンからは浅田真央(中京大)が新しく使うようになったブレードの仕様がある。「レヴォリューション」と呼ばれるものなのだが、ブレードと靴を固定する部分をカーボンファイバーにすることで、軽量化され強度を高めたブレードだ。いくつかのメーカーにこの仕様が見られるが、ここ数シーズン、見るたびに「レヴォリューション」を使っている選手が増えている。横から見たときに、ブレードが大きくM字になっているのがレヴォリューションなので、テレビ越しにも分かるのがなんだかうれしい。
 フィギュアスケートの靴やブレード、衣装などを輸入する会社の代表取締役社長坂田清治さんに伺うと、「『レヴォリューション』は、ブレードが軽くなることで、ジャンプが跳びやすくなるし、けがのリスクも軽減されますね。さらに、これは私の感覚ですが、ジャンプの着氷時に、後ろに倒れようとする力をこらえてくれるように思いますね」
 ブレードによって、ジャンプの転倒が減るのはどんな原理なのだろうか。「ジャンプの着氷は、トゥ(ブレードの前についているギザギザ)に引っ掛けて、まずブレードの前から降りてきて、そのあとブレードの真ん中、後ろと氷に着くことで完了します。このときに、後ろに行く力が強すぎると、転んじゃう。でも、『レヴォリューション』のこのななめ後ろからの支えが、後ろに行く力をぐっと抑えてくれる気がします」とのことだ。

欠かせない“研磨職人”の存在
 靴、ブレードともう1つ、フィギュアスケートに欠かせないのが、ブレードの研磨(シャープニング)だ。フィギュアスケートのブレードは、ひっくり返して氷に接する部分を上にして見てみると、2〜4ミリくらいのU字型の溝があり、その溝の外側と内側の本当に細い部分(エッジ)に乗って滑る。先ほどの坂田社長は、世界屈指のシャープニング(エッジの研磨)職人でもあり、これまでに、浅田真央、キム・ヨナなど数えきれないほどの世界トップスケーターのエッジを研磨してきた。坂田社長によると、「エッジの研ぎ方ひとつで、ジャンプが跳びやすくなったり跳びにくくなったりしますね。選手の演技を見ていて、なんだかあのジャンプの調子が悪いなというときには、エッジのシャープニングが悪いことも多いです。だからたとえばフリップの状態が悪いときにはそれに合わせたシャープニングをするんです」という。
 世界で活躍する選手たちは皆、地味で過酷なトレーニングだけでなく、子供の頃から厳しい状況をも乗り越えて、今の彼らになった。こんな状況をも淡々と受け入れて進んでいく選手たちに、惜しみない拍手を送りたい。

sports.yahoo.co.jp