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2014.07.13 - web sportiva - 新シーズンへ。羽生結弦が語ったソチ五輪後の「葛藤」(折山淑美)

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 2月のソチ五輪、男子フィギュアスケートで金メダルを獲得した羽生結弦(ゆづる)が、新たなシーズンに向けての準備を続けている。

 昨シーズン、昨年12月のグランプリファイナル(福岡)でも勝利して、3月の世界選手権(埼玉)でも優勝し、五輪も含めてシーズン3冠を達成した羽生。6月27日からのドリーム・オン・アイスで、初めて今季のショートプログラム(SP)を披露した後にこう話した。

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アイスショーで今季のSPを披露した羽生結弦

「僕自身、たぶん、シーズンが終わった後は燃え尽きていたと思います。でも、世界選手権の3日後くらいからアイスショーもありましたし、(イベントなどの)仕事も立て込んでいたから、自分が燃え尽きていることに全然気づかなかった。

 アイスショーでは、たくさんの観客のみなさんが五輪チャンピオンとして迎えてくれて……。そういうことを経験して、『頑張ろう』という意欲が沸いてきました。そこで初めて、自分がいかに脱け殻だったかということに気づきました」

ショーで一緒になったエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)など、トップスケーターと一緒にいられたことも、元の自分に戻れた要因のひとつだという。今、 「スケートに集中して本気で打ち込めている」と話す羽生が、今季のSPに選んだのはショパンの『バラード第1番ト短調』だ。

「ピアノの曲はジュニアの時にフリーで2年間使ったけど、その時の感覚がすごく好きだったから、試合でもう一回使いたいと思っていたんです。クラシックは、物語性が明確 ではないから、伝えるという面ですごく難しいと思います。だからこそ、自分の表現の幅を広げたいという意味もあって、選びました」

 振り付けをしたのは、2008年世界王者のジェフリー・バトル(カナダ)。彼に「ピアノの曲を」とだけ伝えて依頼したところ、出来上がったのが今回のプログラムだったという。

  昨季のSP、『パリの散歩道』とはまったく違う、静かな滑り出し。そのプログラムで羽生は冒頭のジャンプをトリプルアクセルにし、得点が高くなる後半に4 回転トーループを持ってきた。さらに、最後に3回転ルッツと3回転トーループのコンビネーションジャンプを跳ぶという難しい構成にしている。その理由を羽生はこう説明する。

「僕自身は進化したいというのがあります。去年までのSPは完成させたと思っていますから、さらに進化し続けるために、何か新しいことをやりたいと 思いました。4回転サルコウを入れることも頭にあったけど、今の僕では、そこまでのリスクはまだ負えないと思っています。それなら確率が高くなってきた4 回転トーループを後半に入れようと思ったんです」

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新潟のアイスショー初日、2回目の公演でジャンプをすべて成功させていた羽生

 6月上旬に練習を始めたばかりで、プログラムを通しての練習もまだやっていなかったという羽生は、初披露をするときは、不安もあって緊張したというが、力強い滑りで4回転トーループもきれいに降りた。

 「自信はついたけど、あくまでショーのSPとしての自信でしかないですね。(ショーは競技リンクより)リンクが小さいので、しっかりステップを踏めてないとこ ろもたくさんあった。まだ大きなリンクで滑っているわけではないですし、試合は試合ですから。課題もたくさんあるから、普通のサイズのリンクでもきれいに ジャンプを決めて、完成させられるようにこれから頑張っていきたいですね。お客さんに見てもらうということはすごく大切なことなので、ショーも練習の場の ひとつだと思っています」

 こう話していた羽生は、7月5日、6日に富山市で行なわれたファンタジー・オン・アイスでも、縦60m、横 30mの五輪サイズのリンクより狭い、縦41m、横19mのリンクでSPを披露。トリプルアクセルと4回転トーループ、3回転ルッツ+3回転トーループを きれいに決め、今シーズンのさらなる進化への強い決意が伝わってきた。

 羽生は昨シーズン、SP、フリーの両方で完璧な演技をそろえた試合がひとつもなかったことへの悔しさがある。それが、進化への強い気持ちにつながっているのだろう。今季の目標についてこう口にした。

「今シーズンはいろんな意味でスタートの年になると思います。五輪が終わって、冒険ができる年というとらえ方もあるけど、やはり僕自身は五輪チャンピオンに なった今だからこそ、これからの成績や実力というのが、ものすごく試されるようになると思っています。五輪チャンピオンらしい結果と演技を、このシーズン でしっかり印象づけていかなければいけないと思います」

また、SPの最初はゆったりしたテンポのため「いかに動きにメリハリをつけるかが課題で、指先の一本一本まで意識して丁寧に動かしていかなくてはい けない」と分析。「後半に入れた4回転トーループを確実に跳ぶためには、自分の体の状況を把握するなど、ひとつひとつ神経を研ぎ澄まさなくてはいけない」 と、修正すべきポイントを冷静に見きわめていた。

 練習では、難易度の高い4回転ループや4回転ルッツにも取り組んでいるという。

「ループは練習では成功しているけど、プログラムに入れるかどうかといえば、たぶん入れないでしょう。ただ、今までの自分の道のりを振り返れば、限界と思うもの までプログラムに詰め込んでやってきた。今、プログラムに入れる最も高度なジャンプは4回転サルコウになると思います。その確率を上げるために、自分の実 力や限界点を高めていくことが必要です。だからこそ練習でループやルッツにもチャレンジしているんです」

 タイトルを独占しても、おごりは 一切なし。挑戦者としての姿勢を持ち続けている羽生は、7月12日からの『ファンタジー・オン・アイス新潟』でも今シーズンのSPを披露した。アイス ショーもプログラムを完成させるための貴重な一歩。ここから、シーズンインへ向けての本格的な準備が始まる。

sportiva.shueisha.co.jp