2016.12.09 - web sportiva - GPファイナルSPで羽生結弦が言う「プログラムの成立に不可欠なもの」

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi  能登直●撮影 photo by Noto Sunao

グランプリ(GP)ファイナルのショートプログラム(SP)当日、午前中の公式練習で、羽生結弦は前日のジャンプの不調をキッチリと修正していた。

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GPファイナルSPで首位に立った羽生結弦 
トリプルアクセルからの3連続ジャンプを皮切りに、4回転トーループと4回転サルコウ+3回転トーループ、4回転ループをきれいに決めると、全選手中最後の曲かけの練習では、4回転ループから4回転サルコウ+3回転トーループ、フライングキャメルスピンを挟んで後半のトリプルアクセルまでノーミス。
 次のシットスピンをやらずに間を置いたが、ステップをキッチリ滑るほぼ完璧な出来だった。気持ちが入っていることが、見た目にもハッキリとわかった。
 だが、夜のSP本番前の6分間練習では、トリプルアクセルと4回転サルコウ+3回転トーループをきれいに決めながらも、4回転ループで苦しんだ。3回続けて3回転になってしまったあとは1回転。それでも、最後の最後になって軸は若干斜めながら、ようやく4回転ループを決めた。

本番では、その4回転ループを、本人が「練習でもやったことがないような耐え方だった」という、ピタリと止まってしまう着氷だったがなんとかこらえ、続く4回転サルコウからの連続ジャンプをきれいに決めた。
 次のフライングキャメルスピンをなんとかこなすと、そこからは乗りに乗った演技になり、スピンとステップをすべてレベル4にする完璧な滑りでフィニッシュ。106・53点を叩き出して、99・76点を出していたパトリック・チャン(カナダ)を抜き、トップに立った。
「すごく緊張して、久しぶりに手足が震えるほどでした。最初の4回転ループは減点がつくすごく汚いジャンプでしたけど、降りることができました。NHK杯よりちょっとステップアップしたと思うので、そこでいい具合に緊張がほぐれたと思います。もし最初の4回転ループがきれいに決まっていたら、『ノーミスをしなければ』と思って余計緊張したと思いますけど、あのジャンプだったから、ある意味緊張がなくなりましたし、そこから速いビートであったり歌詞であったりを考えることができました。会場も盛り上がったので、そういうものも含めてお客さんの歓声や拍手でこのプログラムが作られたなと思います」

 6分間練習は久しぶりに経験する苦戦で、羽生は心の中で「ヤバイな」と思ったという。その原因は緊張だった。そのため自分の演技を待つ間に、その緊張がどういうところからくるものなのかを分析していたという。
「ファイナルという緊張感もありました。それに加えて、午前中の公式練習がよかったということもあったんじゃないかと思います。昨日はすごく悪かったのに、今日の午前の練習はすごくよかった。そういったことでの緊張があったのかなと思います」
 SPの『レッツゴー・クレイジー』は、拠点としているトロントのクリケットクラブで滑っているときも、「自分がコンサートやライブをやっているホールで、ロックスターになったような気分で滑っていた」と羽生は言う。
 その意味では「観客なしでは成立しないプログラム」(羽生)であり、観客との一体感や距離感に関しては、ほぼ納得の演技ができたNHK杯で殻を破れた手応えもあった。だからこそ、今回のGPファイナルは「より楽しみながらできた」と言えたのだろう。
 4回転ループが完璧ではなく、自己ベストを出せなかったのだから、フリーでは完璧な演技をして、自己最高得点の330・43点を更新したい気持ちもあるはずだが、NHK杯で羽生自身が言っていたように、今は「ピークどうこうではなく、どんな状態の時でも勝てるようにアベレージを上げる」ことが大事だ。
 まずは安定して300点台を出し続けていくこと。その先に彼が求める”完璧”が見えてくるはずだ。

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