2012.12.23 - sportsnavi - 羽生結弦、優勝の要因と今後への課題 高橋大輔とのライバル関係が生む“進化”
レベルが高かった優勝争い
ハイレベルな戦いを制した羽生(中央)。先輩たちの存在が「自分を高めてくれる」と話した【坂本清】
「最終滑走ということでプレッシャーも大きく、最初の2つのジャンプを失敗して、少し心が折れそうになったんですが、声援を聞いて力が湧きました」
第81回全日本フィギュアスケート選手権で初優勝を飾った羽生結弦(東北高)は、安堵(あんど)の表情の中に、少しの悔しさを浮かべながら、自身の演技を振り返った。2位の高橋大輔(関大大学院)に10点近い差をつけて迎えたフリースケーティング(FS)。羽生は前日のショートプログラム(SP)で得た貯金を生かし、なんとか逃げ切りに成功した。しかし、演技冒頭の4回転トゥループはステップアウト、4回転サルコウでもバランスを崩すなど、課題とされてきたFSでまたしてもミスを犯してしまった。
その影響もあってか、完璧な演技を披露し、興奮状態だった前夜とは打って変わり、冷静な面持ちで優勝の喜びを語った。
「全日本のメダルはやはり価値が大きいです。これまで先輩たちの背中を追いかけてきて、昨年は3位をとることができました。それもうれしかったんですけど、今回は先輩たちをSPで少し抜き、このメダルをかけることができました。先輩に少しでも追いつけたという意味でうれしいです」
羽生の最終的な総合得点は285.23。これは昨年度優勝した高橋のスコアを30点近く上回る点数だ。一方、2位の高橋もFSで猛追を見せ、280.40を記録。いかに今季のレベルが高かったかを物語る数字である。
今季の急浮上につながったSP
今季はSPで世界最高記録を2度更新【坂本清】
それでは、羽生が優勝できた要因はどこにあったのか。羽生はこう分析する。
「一番はSPでいい演技ができたことだと思っています。今季はSPでいい得点を出すことができています。今回は高橋選手がミスをして、点差を広げることができたので、それが最終的に生きました。FSでも、体力面で最後までもちましたし、プログラムの構成が難しくなっていても、ディダクション(減点)がつかずにいけるようになった。今までとはそこが違ったと思います」
今季、羽生はグランプリ(GP)シリーズのSPで2度、世界歴代最高得点を更新している。また今大会のSPでも、非公式ながらそれを上回るスコアを出した。手足が長い自身の八頭身スタイルを生かした洗練されたプログラムで、高得点をたたき出しており、それが今季の急激な浮上につながっているのだ。
もちろん、それには今年の5月から師事しているブライアン・オーサーコーチの存在が大きい。「試合に対するペース配分なんかを変えてくれましたし、直前の6分間の練習や公式練習で自分をすごくコントロールしてくれる。けっこう僕は無茶してやっていたタイプ。でもブライアンは、何をやるにしても回数を決めてくれるので、すごく体のためにもなっているし、練習効率も上がっています」と絶大な信頼を寄せている。
3種類の4回転ジャンプ習得を示唆
課題のフリー、今回は「50パーセントの出来」【坂本清】
また、高橋との切磋琢磨(せっさたくま)もメンタル面にいい影響を与えている。羽生と高橋は今季、NHK杯、GPファイナル、そして全日本選手権と3大会で優勝争いを展開。1勝1敗で迎えた今大会は羽生に軍配が上がったものの、ソチ五輪までし烈な戦いは続いていきそうだ。
両者はお互いをこう評している。
「僕にとって、高橋選手はすべてにおいて憧れの存在で、まだ一緒の舞台で戦っているという感覚はなく、雲の上の人だと思っています。追いつくとかそういう感じではないんですが、自分を高めてくれる存在であるのは間違いないです」(羽生)
「NHK杯、GPファイナル、全日本と戦ってきましたが、年に関係なくライバルだと思っています。同じ世界のトップを目指し、同等の立場で戦っていて、自分自身にとってすごくいい刺激になる存在ですし、悔しさを与えてくれるので、やりがいを感じています」(高橋)
これまで日本の絶対的エースに君臨してきた高橋との“ライバル関係”は、お互いのレベルを高め合う、最高のモチベーションとなる。2人が高い水準で競ったことで、優勝ラインが昨年度とは比較にならないほど上がり、一方が高得点を出せば、もう一方も負けじとそれに食らいつくことで波及効果も生まれる。高橋がFSで観客のハートをつかむ気持ちを前面に押し出した演技を披露できたのも、前日のSPで見せた羽生の完璧な演技が刺激となったことを本人も認めていた。
羽生にしても、表彰式後の会見で高橋が2種類の4回転に挑戦することを示唆すると、「それなら僕は3種類の4回転を来シーズンにできるようにします」と返すなど、火花を散らしていた。
「来年はまた違った羽生結弦を見せる」
さらなる成長を誓った羽生【坂本清】
もちろん今後に向けて、課題は多くある。とりわけ、羽生自身も認識しているように、負荷が高いプログラム構成に挑むFSでの、体力面の不安は常につきまとっている。それに加えてジャンプの精度や表現力もさらにレベルアップしていく必要があるだろう。
「今日のプログラム自体は50パーセントぐらいの出来かなと思っています。今まで80パーセントの出来になったこともないです。全体的には頑張ったかなという印象ですが、もっともっと力をつけて、SPでもFSでも表現力をつけて、同じように滑ることができるようにしたいです」
とはいえ、改善には向けては手応えもつかんでいるようで、今後は練習拠点を置くカナダに戻り、オーサーコーチとプランを練るという。
「今の一番の目標は世界選手権です。もちろん四大陸選手権に出るかもしれないので、そこはまだ分からないですけど、そこでまたピークを持っていきたいです。来年はまた違った羽生結弦を見せることができればと思っています」
数カ月後、一体どう進化を遂げた羽生を見ることになるのか。世界に羽ばたく18歳の活躍を楽しみに待ちたい。