2014.11.08 - web sportiva - 羽生結弦、まさかのミス。2位発進になった要因とは?(折山淑美)

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao

11月7日に開幕したフィギュアスケート・グランプリシリーズの第3戦、中国大会。

 その公式練習で、羽生結弦はコーチのブライア ン・オーサーに指で「3回転」と示してから3回転ルッツ+3回転トーループを試みたが、いまひとつ精彩を欠いていた──。まだ体を絞りきれていない状態 で、トリプルアクセルを跳んだ後の4回転トーループも空中で軸が動いてしまい、転倒したり手をついたりという出来。

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中国大会のSPで2位と、不本意なスタートになった羽生結弦

 その後、短時間のうちにそのズレを修正すると、曲をかけた練習ではトリプルアクセルも4回転トーループもきれいに降りた。さらに、最初にミスをした

3回転の連続ジャンプも、キッチリと修正してリンクをあとにした。

 そして、ショートプログラム直前の6分間練習では、連続ジャンプこそ3回転+2回転になったが、その次のトリプルアクセルはきれいに決め、4回転トーループも不安なく決めた。

  羽生のひとり前のマキシム・コフトゥン(ロシア)は、4回転サルコウ+3回転トーループと4回転トーループを決めたとはいえ、大きく加点をもらえない出 来。そのうえ、トリプルアクセルが2回転半になってしまい、85・96点でトップに立ったものの、最終滑走の羽生にプレッシャーを与えるほどの点数ではな かった。

 だが、本番が始まると、羽生が公式練習の時に見せたわずかなほころびが、大きくなってしまった。

 スローな曲調で始まった羽生の滑りは硬さもなく、最初のトリプルアクセルもGOE(出来ばえ点)で3・0の加点をもらう完璧なジャンプ。続くふたつのスピンも丁寧にこなし、演技が乱れる要素は見えなかった。

しかし、後半に入って最初の4回転トーループが3回転になってしまい、続く連続ジャンプは不安があった3回転ルッツの着氷で体のバランスが崩れ、連続ジャンプをつけられなかったのだ。

「なかなか滑らないなというか、集中しきれていない感じが所々でありました。調子は悪くなかったので、4回転トーループもたぶん一発目は跳べたはずでした。後 半のトーループに関しては、練習の時からそんなに確率が良くなかったので、そこに関しては不安もありました。(プログラム)後半のトーループになると、練 習でも限られた条件でしか成功できないので……。その面では、まだ練習方法が確立できていないところもあると思うから、次に練習する時には考えていかなけ ればいけないと思います」

 羽生は以前、「昨シーズンの『パリの散歩道』は勢いで滑れたが、今シーズンのSP・ショパンの『バラード第1 番』は序盤からスローなので静かな滑りが必要になる。だから、練習でも『今日は滑っていない』とか『今日は滑っている』というのがはっきりわかるんです」 と話していた。そして、臨んだグランプリシリーズ初戦。今季初戦になるはずだった10月末のフィンランディア杯を腰痛でキャンセルしたこともあり、ジャン プはまだ完璧には仕上がりきっていない。その状態で後半に入れた4回転トーループに不安を感じていたが、それがこの試合で出てしまったのだろう。

 その不安を羽生は「何か新しいことをやることへの不安というか……。SPで初めて4回転トーループを入れた時のような感覚だったのかなと思います」と説明する。

「こんな演技をしていたら日本に帰れないというか……。今日やってしまったことはしかたないので、明日は自分らしさを出すというか、今できることをやっていき たいと思います。(SPは)スローな曲なので、タイミングに惑わされてしまったところもある。また明日(のフリー)へ向かってやっていかなければいけない と思います」

 4回転も連続ジャンプも入れられなかった最悪の出来。羽生は演技終了後、コフトンに3・01点差で2位という結果を見て「あの演技でよくこれだけ高い点数が出たな」と思ったという。たしかに技術点だけをみれば、1位のコフトンだけでなく3位のハン・ヤン(中国)や、4位のリ チャード・ドーンブッシュ(アメリカ)、5位のアレクセイ・バイチェンコ(イスラエル)にも劣る38・53点だった。

それでも、演技構成点は5項目すべてが8点台後半で、44・42点の1位。それはステップシークエンスなどで見せた、深いエッジングのメリハリのあ る滑りや演技が評価されたもの。それは、昨シーズンのパトリック・チャン(カナダ)との戦いの中で、「自分に足りないもの」と強く意識して練習に取り組ん で身につけたものであり、それがさらに進化している証でもある。

 これまで、多くの逆境が彼を進化させてきた。「五輪王者」としての真価が問われるシーズンだからこそ、「結果を出すことが大事」と言う羽生。この苦境だからこそ、羽生が本領を発揮する状況が整ったともいえる。

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