2014.12.11 - Number web - 「負けないスケーター」という理想。 羽生結弦がGPファイナルで追うもの。 (松原孝臣)
NHK杯には難易度を落とした構成で出場したが、コンディションの悪さは隠せず、本来の演技を見せるには至らなかった。GPファイナルでは最高の演技を見せて欲しい。(Aflo)
12月11日、フィギュアスケートのグランプリファイナルがスペイン・バルセロナで開幕する。
日本は男子が羽生結弦、町田樹、無良崇人、女子はファイナル進出を決めていたグレイシー・ゴールドの怪我による繰り上がりで本郷理華が出場する。
昨シーズンまでと遜色のない活躍を見せ、出場する全6名のうち半分を占めた男子にあって、苦しみながらファイナル進出を決めたのは、羽生だった。
11月上旬に行なわれた中国杯では、フリーの6分間練習中の衝突によって負傷し、総合2位に終わった。
その大会から、羽生にとってグランプリシリーズ2戦目となるNHK杯まで、議論が巻き起こった。中国杯のフリーは欠場すべきではなかったか。NHK杯も出るべきではないのではないか、と。さらに、6分間練習のあり方もまた議論の対象となった。
羽生自身の決断は、中国杯を棄権せず、NHK杯にも出場することだった。
発言から考える、スケーターとしての特質。
NHK杯では、ショートプログラム、フリーともに構成を変えて臨んだが、どちらもジャンプの失敗などがあり、総合4位にとどまった。練習を再開したのは、大会の1週間前あたりからだった。しかも、プログラムの通し練習もしないままで試合を迎えたという。
やはり、負傷の影響は大きかった。
ただし、羽生自身はフリーを終えたあとに強い口調で言った。
「皆さんが思っているのは、練習できなかったということでしょうが、そうじゃなくて、これが僕の実力です」
また、フリーの翌日にはこう明かしている。
「昨夜は悔しくて寝たり起きたり、夢の中でうなされたりしていました」
その2つの言葉は、羽生のスケーターとしての特質を表している。
以前、羽生がインタビューで答えていた言葉を思い出す。
「(小学生のときから)とにかく負けず嫌いだったので、何をするにしても、自分ができないと『絶対に一番になってやる』と思って、練習に取り組んでいました」
徹底した負けず嫌いが、羽生の土台。
これから目指していきたい、思い描いているスケーター像は?
そう尋ねると、こう答えた。
「選手1人1人、いろいろな特徴であったり、得意とするところがあると思います。この選手ならこれ、と。でも僕は、絶対に負けないスケーターになるというのが、考えているところです」
それらの言葉にうかがえるのは、徹底した負けず嫌いであること。そして勝負への強いこだわりである。
それが羽生の土台となっている。
そういえば、2年前の世界選手権では捻挫し、棄権を考えざるを得ない中での演技を強いられている。そんな状況下でもショートプログラムからフリーで順位をあげ、銅メダルを獲得した。
逆境をも跳ね返そうという負けず嫌いっぷりはある意味、反骨心、反逆心という言葉が近いのかもしれない。
最下位でのグランプリファイナル進出、果たして。
そうしたメンタルが中国杯の強行出場、NHK杯出場につながったし、NHK杯後の言葉もまた、その延長線の上にある。
さらに言えば、NHK杯でもしあと1つ順位が下だったらグランプリファイナルには進出できなかった。ぎりぎりの順位で進出をつかめたのも、羽生の執念であったと言えるのではないか。
そして今、グランプリファイナル開幕を目の前にしている。
NHK杯での演技を挽回しようとこの2週間弱、いつも以上に追い込んだ練習量をしてきたという。
12日にはショートプログラム、13日にはフリーが控える。
「チャレンジャーとして、一番上を狙っていきたいです」
NHK杯後に抱負を語っていたこの大会で、最下位での進出という位置から、逆襲を期している。