2015.12.10 - Number web - 前人未踏のレベルに達した羽生結弦。(松原孝臣)
前人未踏のレベルに達した羽生結弦。
GPファイナル3連覇を阻む者は誰だ!?
今振り返っても、圧巻としか言いようがない2日間だった。
ショートプログラムとフリーの合計得点322.40は、2つのプログラムの濃密な時間の証明だった。
羽生結弦は、11月末のNHK杯で、一段どころか加速的に進化した姿を見せて優勝を遂げた。
前人未到の得点へと至ったのは、さまざまな面での成長であり進化が理由であるのは言をまたない。その1つとしてジャンプがあり、得点の大きな源ともなった。
NHK杯では、ショートプログラムで4回転サルコウ、4回転トウループ―3回転トウループと、2つの4回転ジャンプを組み入れた構成で、100点を超える106.33。自身の持つショートの世界最高得点を塗り替える。4-3のコンビネーションジャンプの成功は初めてだった。
フリーでは4回転サルコウ、4回転トウループ、4回転トウループ―3回転トウループと3つの4回転ジャンプを跳んで成功させると、216.07。パトリック・チャンの持つ、フリーと合計得点双方の世界最高を塗り替えた。
「史上初になりたい」羽生は4回転にこだわる。
ショートで4回転を2本入れるのは、NHK杯のひと月ほど前に行なわれたスケートカナダのあとに決めたことだった。
短期間で2本の4回転をプログラムに組み入れ、成功したのである。決断してからの時間は短期間とはいえ、跳ぶことができたのは長期的な取り組みあってのことだった。
貪欲な4回転ジャンプへの意欲を見せる羽生の言葉は、2014年、目標としてきたオリンピックの金メダルを獲得したあと、ソチで語った言葉を思い起こさせもする。
「いろいろな4回転をやってみたいと思っています。初めて跳んで、史上初になりたいという野望は抱いています」
それを現実にするために、練習ではあらゆる種類の4回転ジャンプに取り組んできた。
ときに、多くの人々が見守る前で跳んでもみせた。
4回転ジャンプへの準備を周到に重ねてきた。
2015年4月に行なわれた世界国別対抗戦のエキシビションや、5月に幕張で開催された「ファンタジー・オン・アイス」で、4回転ループに挑んだ。
6月、「ドリームオンアイス」のフィナーレでは、4回転アクセルに挑んだ。転倒し、勢いあまって観客席に半ば飛び込む形となったが、喝采を浴びた。
「お客さんのいる前でチャレンジすることも、重要な練習になると思っています」
3年前にそう口にしているが、これらのチャレンジもまた、現実とするための過程だっただろう。
まだプログラムに4回転のループやアクセルを取り入れているわけではないが、これまでに見せてきた4回転ジャンプへの志向と練習を積み重ねてきた上での、NHK杯だった。そうでなければ、決して長くはない準備期間で2本の4回転ジャンプを跳ぶという変更を成功させることはできなかった。
「もっと難しい、質の高い4回転を目指す」
そもそも、4回転ジャンプへの強い意欲を駆り立てているものは何か。
NHK杯へ向けてのチャレンジの背景には、NHK杯でも2位となったボーヤン・ジン(中国)のように、2本入れる選手が次々に現れたことがあった。
「オリンピック王者として、連覇をするためにも、さらに挑戦しないといけないと思いました」
同時に、ソチ五輪の時点で語っていたように、長い目で見れば、これから訪れるであろう時代を予見していたからでもある。ソチ五輪ですでに4回転ジャンプを伸ばしていく意欲を示していたのは、それがあったからである。
NHK杯のあとにも、このように語っている。
「時代はオリンピックごとに変わっていきます。(SPとフリーで計6回の4回転に挑んだ)ボーヤン・ジン選手にはスケート界の将来を見ているような気もしましたし、僕ももっと難しい、質の高い4回転を目指してやっていきたいと思います」
ボーヤン・ジンの、フリーで「4回転ジャンプは4つで十分」という言葉に対し、
「僕は(フリーでの4回転ジャンプが)4つで十分かと言われれば、そうではないと思います」
GPファイナルのライバルは羽生自身である。
衝撃のNHK杯を経て、今日12月10日からは、自身の3連覇がかかるグランプリファイナルが開幕する。
羽生は同大会へ向けての抱負を、こう語っている。
「ほかの選手は関係なく、自分の記録、自分の演技を超えられるよう頑張りたいと思います」
そうだ。4回転ジャンプのさらなる高難度化を目指す意志の根底にあるのは、より高みへ上がりたいというモチベーションである。
新しい自分と出会うための1つとしての、4回転ジャンプへの強い志だ。
グランプリファイナルでその意欲、志をどう表現するのか。大会のみどころでもある。