2015.12.14 - Number web - 基礎点はもう上限、伸ばせる要素は? (松原孝臣)
基礎点はもう上限、伸ばせる要素は?
羽生結弦は一体どこまで行く……。
「厳しい練習に耐えてくれた(自分の)身体に感謝。そして応援して下さっている方々皆さんに感謝したいです」とコメントした羽生。 (Asami Enomoto/榎本麻美)
11月末、世界中のフィギュアスケート関係者やファンすべてに衝撃を与えたであろうNHK杯での300点超えから、約2週間。
再び、衝撃は訪れた。
それはNHK杯以上と言ってよいかもしれない。
スペイン・バルセロナで行なわれたグランプリファイナルで、羽生結弦はショートプログラムでNHK杯の106.33から110.95、フリーでは NHK杯の216.07から219.48とそれぞれ伸ばし、合計得点でも322.40から330.43と上げて3連覇を飾った。
NHK杯では、ショート、フリーでの得点、さらに合計得点で示された数字に驚嘆させられた。
そこからさらに伸ばした今回、ふと、考えさせられた。
いったい、どこまで得点をあげられるのか、と。
ショートプログラム、フリーのプロトコルを見て、検討してみる。
ショート、フリーともに内容を検証。
まずはショート。
技術点の中で、唯一、基礎点を上げられる可能性があるとすれば、ステップだ。今回、レベル3であったが、レベル4になれば、基礎点は0.60上がる。
GOEで最大限の加点を得たのは4回転サルコウと4回転トウループ-トリプルトウループ。ステップがレベル4であったときも含め、その他の要素は、さらに加点される余地がある。
ファイブコンポーネンツは49.14。満点は50点だから、その差は0.86だ。
あらゆる部分での上限の合計は113.65。ショートでの羽生の得点は110.95だったから、2.70が伸ばせる余地ということになる。
フリーはどうか。
ジャンプすべてでミスがなかったのはもちろん、スピンではレベル4を獲得している。ステップはレベル3だったので、ここも余地があるかもしれない。
羽生がさらに点数を伸ばす余地は……。
フリーでのGOEは、4回転サルコウ、4回転トウループ、トリプルアクセル-ダブルトウループ、コレオシークエンス以外の要素は、まだ上限には達していない。
そしてファイブコンポーネンツは満点で100点。羽生は98.56だから、差は1.44。
上限の得点の合計は、225.79になる。
実際に大会で出した得点は、219.48。つまり、6.31がここから上積みすることのできる数字だ。
合計すれば、339.44が、マックスの得点ということになる(*もちろん、4回転トウループではなく4回転ループにするなど、より基礎点の高いジャンプに変えれば、理屈の上ではもっと高い得点を出すことはできるが、先々はともかく、今はさておく)。
他選手が完璧に滑っても、まだ羽生には届かない。
こう考えると、羽生のグランプリファイナルでの330.43の凄みがあらためて分かる。もはや、改善できる部分はごくわずかしかないのだ。
しかも、今回のプログラムの構成では、仮にあらゆる部分でパーフェクトだったとしても、銀メダルのハビエル・フェルナンデス(スペイン)もパトリック・チャン(カナダ)も羽生を追い越すことはできなかったはずだ。
ファイブコンポーネンツはショート、フリーともに満点が共通である以上、選手個々の上限はない。だから、理屈の上では、羽生に勝負を挑むとすればショート、フリーで計6つの4回転ジャンプを入れて技術点で上回ろうとするボーヤン・ジン(中国)のような方向性しかない。
そう考えてみると、羽生の演技の恐るべき価値と、到達した地点がどれほどの高みなのかが分かる。
NHK杯では、「ここまでできるのか」と、ただただ驚きがあった。そこから短期間で迎えることになったこの大会で、疲労がなかったはずはない。
しかも、NHK杯が終わったあと、コーチのブライアン・オーサーは拠点であるカナダ・トロントに戻ったが、羽生はトロントに戻らず、国内で練習していたという。
たったひとりでも万全……驚異的な自己管理能力。
見守るコーチの目がない中での練習と調整であったにもかかわらず、調子を落とすことなく、さらに向上させたのである。
コーチ不在では往々にして崩れることがある。そうならなかったのは、羽生の自己管理のレベルの高さを示しているし、達成感に浸ったままではなかったことを表している。
そのメンタルもまた、賞賛に値する。
NHK杯に続き、グランプリファイナルでも驚異的な滑りを見せて上限の得点にほぼ近づいた。今シーズンの残りの大会で、上限の得点までのわずかな差をさらに縮めていけるのか。
その差をすべて埋めたとき、どのような光景が広がるのか……。
そんなことを思わされた大会だった。