2016.04.15 - web sportiva - どこまで伸びる?羽生結弦が火をつけたフィギュア高得点化の波

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi  能登直●撮影 photo by Noto Sunao
 フィギュアスケートの2015-2016シーズンの大きな特徴は、大会上位のスケーターが高得点を連発したことだった。

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 今シーズン、二度の300点超えを達成した羽生結弦 
 その先駆けとなったのは、NHK杯での羽生結弦の史上初の300点超え達成となる322・40点での優勝であり、それはさらに2週間後のGPファイナルでの330・43点へとつながった。
 完璧な演技をした羽生だけにとどまらず、GPファイナルでは、ハビエル・フェルナンデス(スペイン)がフリーで羽生に次ぐ史上ふたり目の200点超えとなる201・43点を獲得。さらに、フェルナンデスは1月末のヨーロッパ選手権のショートプログラム(SP)で羽生に次ぐふたり目の100点超えの102・54点を獲得し、フリーでも再度200点を超え、合計で300点超えとなる302・77点を記録する快挙を達成した。
 また2月の四大陸選手権では、パトリック・チャン(カナダ)がフリーで完璧な演技を披露して史上3人目の200点超えとなる203・99点を出した。
 高得点化は世界選手権でも顕著だった。SPでは羽生が歴代2位の110・56点を叩き出し、フェルナンデスはフリー歴代2位の216・41点を獲得して、合計も314・93点を記録した。
 

同じ流れは女子でも見られた。GPファイナルでのエフゲニア・メドベデワ(ロシア)は、2010年バンクーバー五輪のキム・ヨナ(韓国)と、14年ソチ五輪のアデリナ・ソトニコワ(ロシア)に次ぐ222・54点を獲得。しかも、世界選手権のフリーではキム・ヨナの世界最高得点を0・4点上回る150・10点。合計でも歴代3位の223・86点にして優勝を決めた。
 さらに、2位のアシュリー・ワグナー(アメリカ)も215・39点、3位のアンナ・ポゴリラヤ(ロシア)は213・69点。4位以下も200点台が続き、7位の浅田真央も200・30点と、かつてないハイレベルな戦いになった。

 高得点化の要因のひとつは、ジャンプの構成の難易度がより高くなってきていることにある。男子では、シニア1年目のボーヤン・ジンがルッツとサルコウ、トーループの3種類の4回転ジャンプをSPとフリーで合計6回入れ、そのうち3回は得点の高い演技後半に組み込んだ。これを筆頭に、複数種類の4回転をSPで2回、フリーで3回入れることが当たり前のようになってきている。
 また、GPファイナルでの羽生の得点を見れば、SPでは4回転サルコウと4回転トーループではGOE(出来ばえ点)で満点の3点をもらい、7要素の得点は合計で14・36点の加点をもらっている。フリーでは4回転サルコウと4回転トーループに加え、トリプルアクセル+2回転トーループでGOE満点の3点を獲得し、コレオシークエンスも全審判が+3点を付けて満点の2・1点の加算。こちらも13要素の合計で25・73点の加点をもらっている(ちなみに、13年のフランス杯でパトリック・チャンが当時の世界最高得点である295・27点を出した時は、GOEの合計がSPは9・64点でフリーは17・48点)。
 演技構成点でもSP、フリーともに5項目で満点の10点を付けた審判が多く、SPでは満点にあと0・86点の49・14点を獲得。フリーでは満点の100点にあと1・44点の98・56点を獲得と、ほぼ上限に近くなっている。
 技術点の加点に関していえば、選手たちはジャンプの質を上げたり、跳ぶ前と着氷後に技をつなげることで、より多くの加点を得るための努力をしている。世界選手権で優勝したメドベデワのように、ほとんどのジャンプで片手を上げるか、または両手を上げて跳ぶ選手も増えており、すべての選手が細かなところまで神経を張り巡らせて得点の向上を目指しているのだ。
 さらに、各選手が演技構成点でより高得点を獲得するための対策をする状況で、審判側も、これまでより満点を出すことに、以前より抵抗感を感じなくなっているともいえる。
 そんな高難度化と高得点化のなか、ジュニア世代でケガが増えているのも確かだ。今季のジュニアGPファイナル3位の山本草太は足首骨折のため世界ジュニアを欠場。ジュニアGPファイナル優勝のネイサン・チャン(アメリカ)も全米選手権のフリーで4度の4回転を成功させて銅メダルを獲得した直後、エキシビションで股関節を痛めて世界ジュニア欠場となった。
 高難度のジャンプを続けることで疲労蓄積があったことは否めない。女子でも、ジュニアGPファイナル優勝のポリーナ・ツルスカヤ(ロシア)が、世界ジュニアのSP直前にケガをして欠場と、男女ともファイナル王者がケガで欠場する事態となった。

 羽生はそんな高得点化の傾向についてこう語る。
 「ジュニア世代やノービスの選手を見ていてもそうですが、技術が進化していくなかで(体への)負荷も大きくなり、ケガのリスクもあると思います。体に伴わない技術の進歩というのが少し見られてきているのかな、とも思います。これから技術がより進化していくことによって、より体への負担が少なくなるジャンプの技術ができてくるかもしれないですし、あるいは、バンクーバー五輪の頃のように高得点化の波が落ち着いていくのかもしれない」
 技術の進歩とケガのリスクはある意味背中合わせのもの。若い世代の選手たちがシニアで花開くためにも、羽生が言うように、リスクをより少なくするための技術の進歩も必要だろう。また、フィギュアスケートという競技は「技術と芸術性を融合させること」が大きな目標のひとつといえる。フィギュアスケートがスポーツ競技としてどう推移、進化していくのか、来季の展開に注目したい。

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