2017.03.27 - web sportiva -羽生結弦を追う新旧ライバルも充実。 世界選手権は300点超バトルに
折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi能登直●撮影 photo by Noto Sunao
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/othersports/figure/2017/03/27/_split_300/
3月29日からフィンランドのヘルシンキで開催される世界フィギュアスケート選手権。女子は、今年1月のヨーロッパ選手権を歴代最高の229.71点で連覇するなど、今季出場した5試合すべてで優勝しているエフゲニア・メドベデワ(ロシア)が頭ひとつ抜けている状況だが、男子は新旧勢力が入り乱れての大混戦になりそうだ。
その中で最も優勝に近いのは、昨年12月のグランプリ(GP)ファイナルで4連覇を果たした羽生結弦(22歳)だろう。今季はまだノーミスの演技ができていないものの、4回転ループをショートプログラム(SP)とフリーに入れた新プログラムは、2015年のGPファイナルで出した歴代最高の330.43点を更新できる構成となっている。
ここまでの試合でも、その可能性を十分に示してくれている。GPファイナルのSPでは、最初の4回転ループがGOE(出来ばえ点)で1.03点減点されるも、その後を完璧に滑って106.53点を獲得。さらに、SPで3位と出遅れた今年2月の四大陸選手権では、翌日のフリー後半に4回転サルコウからの連続ジャンプを失敗したが、予定していたトリプルアクセルを4回転トーループからの連続ジャンプに変更し、最後の3回転ジャンプもトリプルアクセルに変えるなど見事なリカバリーを見せた。その結果、自己サードベストの206.67点を獲得し、4種類5回の4回転を着氷したネイサン・チェン(アメリカ)を2.33点上回って、フリーでは1位になっている。
フリー後半の4回転サルコウの失敗が続いているが、羽生は「自分の中ではトーループよりサルコウのほうが成功する確率が高いと思っているし、きれいに決まった時の完成度はものすごく高いと自負しています。それをしっかり試合で出せるように、心や体力面も含めた強さを求めていかなければいけないと思う」と自信を持っている。5試合を終えて徐々にプログラムに慣れてきており、四大陸を終えてからの準備期間も十分あることを考えれば、 世界選手権に向けて完成度をさらに高めてくることは間違いない。
そんな羽生の最大のライバルとなるのは、ルッツとフリップ、サルコウ、トーループの4回転ジャンプを持つ17歳のチェンだ。 四大陸のフリーでは、技術点で羽生を3.15点上回りながらも、演技構成点の差で2位となった。だが、4回転ルッツ+3回転トーループと4回転フリップ、トリプルアクセルをしっかり決めたSPでは歴代3位の103.12点を獲得。 その貯金もあり、ISU公認大会で史上3人目の300点超え達成となる307.46点で逃げ切った。
今年1月の全米選手権でも、フリーで4種類5回の4回転ジャンプを決めるなど318.47点で優勝している。その好調を維持する難しさはあるが、世界フィギュアでも300点台を出して優勝争いに絡んでくるだろう。
さらに、四大陸のSPで自身初の100点台となる100.28点を出した、19歳の宇野昌磨にも注目だ。同大会のフリーで、初めてプログラムに入れた4回転ループを成功させたほか、フリップ、トーループも4回転を跳んでいる。トリプルアクセルを2回転倒したことで得点は187.77点にとどまったが、「トリプルアクセルはそれほど難しいジャンプだとは思っていませんが、気を抜くと失敗するジャンプ。3回転ループのような気構えでいってしまったせいで失敗した」と冷静な分析ができていた。
宇野は、4回転が2種類3回だったGPファイナルのフリーで195 .69点を出した。合計303.68点で優勝した今年3月のプランタン杯でも、 フリー冒頭で4回転ループを転倒しながら199. 37点を獲得するなど、200点超えへ準備はできている。年が明けてから、四大陸フィギュア、冬季アジア大会と連戦をこなし、 その2週後にはプランタン杯に出場して実戦経験を積んでいるのは、4回転ループを入れた構成に早く慣れるためだろう。昨季最終戦のチームチャレンジカップで4回転フリップに成功して以来、一気に力をつけているだけに、宇野にかかる期待は大きい。
一方で、ここまで挙げた3選手の「先輩たち」も、虎視眈々と優勝を狙っている。昨年まで世界選手権を連覇している、25歳のハビエル・フェルナンデス(スペイン)がそのひとり。今季はGPファイナルこそ4位だったものの、それ以外ではGPシリーズを2勝、1月のヨーロッパ選手権で5連覇を達成するなど安定した成績を残している。ISU公認大会ではヨーロッパ選手権の294.84点がシーズンベストだが、SPを自己最高の104.25点まで伸ばすなど上り調子。世界選手権で本領発揮となれば、大会3連覇が見えてくる。
そのフェルナンデスより前に世界選手権3連覇を成し遂げた26歳のパトリック・チャン(カナダ)も、 GPファイナルのSPでは99・76点で羽生に次ぐ2位につけたように、大舞台では力を出してくる。今季からフリーで取り組み始めた4回転サルコウを成功させられれば、合計を300点台に乗せてくる可能性は十分だ。
男子のメダル争いは300点台での勝負になるだろう。ハイレベルな戦いから脱落しないためには、各選手ともにSPをノーミスで終えることが絶対条件。そこからフリーでの激しいつばぜり合いが始まる。