2017.02.11 - web sportiva - 羽生結弦に迫るチェン、チャン、宇野…。 四大陸選手権はフリーがカギ

折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi 能登 直●写真 photo by Noto Sunao
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/othersports/figure/2017/02/11/post/
 来年の平昌五輪のプレイベントとして、2月16日から韓国の江陵で開催されるフィギュアスケート四大陸選手権。男子は3月末に行なわれる世界選手権の前哨戦ともいえる大会になりそうだ。
 出場予定選手の顔ぶれを見ると、日本からは12月のGPファイナルで4連覇を達成した羽生結弦と、GPファイナルで2年連続3位となるなど、シニアで確実に進化する姿を見せている宇野昌磨が出場。それに対してアメリカからはGPファイナル2位のネイサン・チェンが、カナダからは世界選手権3連覇(2011~2013)の実績を持ち、今季もGPファイナル進出を果たしているパトリック・チャンが参戦する。また、今季の前半戦は調子を上げきれずにいたが、上記4人の戦いに割り込んできてもおかしくない力を持つ中国のボーヤン・ジンとハン・ヤンも、エントリーリストに名前を連ねている。
 デニス・テン(カザフスタン)は欠場することになったが、「それ以外の世界の強豪は?」と考えると、世界選手権連覇中(2015~2016)のハビエル・フェルナンデス(スペイン)の名前が挙がるくらい。まさしく世界トップの戦いが、まずは江陵のリンクで行なわれることになる。

 優勝候補には、まずは羽生の名前が挙がるだろう。ショートプログラム(SP)、フリーともに4回転ループを入れた技術構成は、今の4回転時代にしっかり対応したものだ。NHK杯ではSP、フリーともにミスをしながら合計301.47点を獲得して優勝。このことは彼の今季のプログラムが持っているポテンシャルの高さを証明している。
 羽生の総合力の高さは、どのライバル選手も認めている。さらに今回は、全日本選手権を体調不良のために欠場したという悔しさもある。どの大会でもベストを尽くしたいと思っている羽生だからこそ、「この大会で全日本の分も!」と強く意識しているはずだ。
 もちろん昨季のGPファイナルで出した世界記録、330.43点の更新も意識しているに違いない。そのための課題は、フリーをどこまで仕上げてくるかということになる。
 SPに関していえば、羽生は練習で夏場から何度もノーミスの演技をしてきた自信があると語っていた。シーズン序盤にはそれを試合ではなかなか再現できなかったが、ファイナルでは最初の4回転ループがGOEで1.03点減点されるだけのミスにとどめて106.53点を獲得しており、自信を強めたはずだ。ロック調の曲は彼の勢いを存分に出せるプログラムだけに、今回はノーミスで110点台に乗せる可能性も十分にある。

 一方、フリーではシーズン初戦から、前半はパーフェクトな演技をしながらも、後半で苦しんでいる。ジャンプを跳ぶタイミングを音で取りにくいピアノの曲であるうえ、後半は4回転サルコウ+3回転トーループと4回転トーループで始まり、トリプルアクセルからの連続ジャンプを2本続けるという難度の高い内容だ。あえてそういう曲を選んだのは羽生の自分自身への挑戦でもある。それをどこまで仕上げてくるかが見どころとなる。
 総合力では一歩抜きん出ている羽生だが、それを追いかけるのが若手のチェンと宇野だ。GPファイナルではフリーで盛り返し、それぞれ2位と3位に入っている。
 特にチェンは今季、新世代スケーターの代表ともいえるポジションを確立しつつある。ファイナルのフリーでは前半に3種類の4回転を4本跳ぶ構成で197.55点を獲得、SP5位から2位に順位を上げた。さらに今年、全米選手権のフリーでは、前半の4回転4本に加え、後半に4回転サルコウを入れてきた。4種類5本の4回転ジャンプが入るこの構成をほぼノーミスで成功させ、212.08点を獲得している。その驚異的な演技を再び見せることができるかどうかに注目が集まる。
 一方の宇野は今季、SP、フリーともに4回転フリップを入れたプログラムに挑戦しており、GPファイナルではともに成功させている。表現力も世界のジャッジにしっかり認められるようになり、ファイナルのフリーでは演技構成点で羽生とフェルナンデスに次ぐ3番目の90.94点を獲得しているのも強みだ。

 4回転ジャンプや苦手にしている3回転ルッツのGOE加点を上げることが課題となるが、すでにエキシビションなどでは4回転ループも跳び、プログラムに入れられるのも間近と、旺盛なチャレンジ精神を持っている。まだ伸び盛りの宇野が四大陸で見せてくれるだろう進化の兆しは、世界選手権を占う意味でも重要になる。
 ファイナルでは5位にとどまったチャンも、SPでは99.76点で2位につけており、侮れない存在だ。今年1月のカナダ選手権のフリーでは、今季から入れている4回転サルコウを成功させた。後半の4回転トーループこそ3回転に抑えたが、ノーミスの演技で205.36点を獲得し、2年連続9回目のカナダ王者になっている。
 昨年の四大陸選手権、チャンはSP5位発進ながら、フリーでは4回転がトーループ2本だけという構成にもかかわらず、パーフェクトの演技で203.99点を獲得。3種類の4回転を4本入れたSP1位のボーヤン・ジンを逆転して優勝するという離れ業を演じている。経験豊富でスケーティングの技術が高く、大舞台での集中力も際立っているだけに、完璧な演技を見せて上位に食い込んでくる可能性もあるだろう。
 この4人に加えて中国のふたりが調子を上げてくれば、今年の四大陸は世界選手権顔負けのハイレベルな戦いが繰り広げられることになる。平昌のゆくへを占う韓国での大会で、羽生、宇野の完璧な演技に期待したい。