2016.11.28 - sportsnavi - 田中刑事、日野龍樹それぞれのNHK杯 同級生・羽生結弦の背中を追いかけて (大橋護良)

2016年11月28日(月) 12:02
3人で初めて迎えるシニアの国際大会

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今年のNHK杯には羽生と田中(右)、そして日野の同学年3人が集った【写真:アフロスポーツ】
 11月25日から27日にかけて行われたNHK杯で、羽生結弦(ANA)が自身3度目となる合計300点超えを果たし、連覇を達成した。ソチ五輪では日本男子初となる金メダルを獲得し、GPファイナルは3連覇中。その強さはとどまるところを知らない。
 同大会には、羽生(1994年12月生まれ)と同じ学年の日本人選手がもう2人出場していた。それがグランプリ(GP)シリーズ初の3位に入った田中刑事(倉敷芸術科学大/94年11月生まれ)と、9位の日野龍樹(中京大/95年2月生まれ)である。
 そんな同級生3人が、シニアの国際大会で顔を合わせるのは初めてのこと。前日会見で彼らは「こうして3人が同じカテゴリーで戦えるのはうれしい」と口をそろえた。また田中と日野は「少しでもユヅ(羽生)に近づきたい」と闘志を燃やしていた。

田中が感じた上位2人との差

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GPシリーズで初めて表彰台に立った田中(右)だが、羽生、ネイサン・チェン(左)との差を痛感したという【写真:アフロスポーツ】
 シニア3シーズン目となる田中は、2011年の世界ジュニア選手権で2位となったものの、それ以降は国際舞台で目立った成績を残せずにいた。今季はアジアフィギュア杯で優勝したが、GPシリーズ初戦となったロシア杯は7位。ショートプログラム(SP)、フリースケーティング(FS)とも組み込んでいる4回転サルコウが決まらず、得点を伸ばせなかった。
 同じ岡山出身の高橋大輔に憧れ、表現力には定評のある田中だが、4回転ジャンプの習得はそれほど早かったわけではない。初めて試合で成功させたのが13−14シーズンのジュニアGPチェコ大会。すでに大学1年生になっていた。そのときはトウループで、昨シーズンのNHK杯ではサルコウも決めている。ただ、4回転ジャンプを完全に自分のモノにしたというわけではなく、試合では成功することが少ない。トウループに至っては今季のプログラムに組み込んでいなかった。
 しかし、NHK杯ではその4回転サルコウを決めてみせた。SP3位で迎えたFS、冒頭のサルコウはやや乱れたものの、続く4回転サルコウ+2回転トウループのコンビネーションを見事に着氷。するとその勢いのまま、持ち前の表現力で会場を一体化させるパフォーマンスを披露した。合計得点は自己ベストを更新する248.44点。羽生、ネイサン・チェン(米国)に次いで3位表彰台入りを果たした。
「SP3位ということでそこから緊張感が増しました。FSを滑るまでは緊張に押しつぶされそうだったんですけど、リンクに立ったら演技しやすい雰囲気を作れたのがよかったと思います。変に身構えず、攻めていこうという気持ちでやりました」
 表彰台に立ってみて感じたのは、上位2人と自身の差だった。羽生やチェンとは、跳べる4回転の種類や、プログラムに組み込んでいる本数でも劣っている。加えてスケーティングの向上も求められる。「まだまだ自分は世界で戦えるレベルではない」と痛感したという。
 それでも、羽生とともに表彰台に立てたことは、今後への意欲にもつながったようだ。
「今回は優勝したユヅに向けられた国歌でしたけど、いつか自分の成績で聴きたいなと思いました。まだまだ追いつけないという気持ちもあるんですけど、NHK杯では僕も結果を出せたし、今後はこうして少しでも同じ舞台で戦って、ユヅに食らいついていけるように戦っていきたいです」


日野「現実を突きつけられた」

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FSの後、日野は羽生から「もっとこいや!」とゲキを受けた【写真:ロイター/アフロ】
 一方の日野は、田中と同じくシニアは3シーズン目で、このNHK杯がGPシリーズ初出場。しかし、当初から出場が決まっていたわけではなく、16歳の山本草太(愛知みずほ大瑞穂高)が負傷により欠場したことで機会が回ってきた。全日本ジュニア選手権2連覇(11年、12年)、ジュニアGPファイナル3位(12年)とジュニア時代は実績を残しているものの、シニアに移行してからは伸び悩む。繊細な性格が災いしてか、思うような演技ができなかったときは「自分に落胆した。思い通りにいかないなら練習なんてしてくるんじゃなかった」と、ネガティブな言葉が口を突いて出てきたこともあった。
 日野にとってこのNHK杯は、キャリアを浮上させるまたとないチャンスだった。前日会見では「長年出たかった大会ですし、今回出場できなかった選手に『こんな演技だったら自分が出たほうがよかった』と思われない、出るに値する演技をしたいと思う」と、独特の言い回しで決意を語っていた。
 だが、SPは4回転を入れなかったこともあり、72.50点と自己ベストを更新しながら9位にとどまった。翌日のFSでは、4回転トウループに挑んだものの転倒。後半にも3回転フリップでエラーを取られるなど細かなミスが散見され、結局SPから変わらず9位のまま初のGPシリーズを終えた。
「あっという間に終わってしまいました。ミスが出たし、動きが硬かった。課題が見つかったことが収穫です。現実を突きつけられた大会になりました」
 現在の男子フィギュアスケート界は空前の「4回転時代」。4回転ジャンプなくして、高得点は望めない。日野はSPで4回転ジャンプを入れなかったが、「跳べていたころの感覚がなくなってしまい、組み込むことができない状態だった」という。FSでは挑戦したものの、結果は最初から見えていた。
 同級生2人が表彰台に立ったことはうれしくもあり、悔しいことでもあったはずだ。羽生からは「もっとこいや!」とゲキも受けた。このまま終わるわけにはいかないし、モチベーションも落ちてはいない。
「でも僕はこれまでも急成長はしてこなかったんです。高校1年生でジュニアGPシリーズに初めて出たときも、僕の出来自体は悪くなかったのに、全体のレベルの高さに跳ね返された。ユヅのように順風満帆には来ていないので、『もうちょい待って』という感じです。ただ、気にかけてくれるのはありがたいです。次の全日本選手権までに少しでもレベルを上げたいと思っているので、『頑張っているんだな』とユヅが思ってくれればいいなと思っています」

いつか再び3人で競い合う日を夢見て
 合計300点超えを果たし優勝した羽生、GPシリーズで初となる3位表彰台を勝ち得た田中、そして9位と現実を思い知らされた日野。同級生3人がシニアの国際大会で初めて顔を合わせたNHK杯は、明暗がくっきり分かれる結果となった。羽生は大会から一夜明けた取材対応で、2連覇が懸かる平昌五輪に向けて4回転ルッツの習得を示唆しており、さらなるレベルアップに貪欲な姿勢を見せた。
 一方、羽生とのレベル差をまざまざと見せつけられた田中と日野は決意を新たにしている。道のりはまだ遠いが、少しでも距離を縮めていくために新しい技も積極的に取り入れていくようだ。そしていつか再び3人で競い合う日を夢見て、田中と日野はこれからも羽生の背中を追い続けていく。

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